第25話 バウムクーヘンの町
ザルツヴェーデル。
北ドイツのリューネブルクの近く、ザクセン=アンハルト州にある旧東ドイツの小さな街。ドイツ人に訪ねても「どこなの?」と逆に問われるほどの知名度だ。
観光地というわけでなく、古いレンガ造りや木組みの家が立ち並び、のどかな街という印象。まさにおとぎの世界だ。
古めかしい街中を進んでいけば、ちらほらと看板が見えてくる。縦にうねうねと積み上がったバウムクーヘンの看板こそ、味を競いあう店々の印。ブラックボードにもバウムクーヘンの文字がみてとれた。
のんびり散歩しながら南に歩いて十五分。
目あてである老舗、カフェ・クルーゼに行き着いた。
現代風バウムクーヘン最古のレシピ本と、同時期から伝わるガルベスレシピを一度は両方受け継ぎ、ザルツヴェーデルのバウムクーヘンを統合した店、カフェ・クルーゼ。大きな店ではないが、バウムクーヘン以外のお菓子も豊富で、カフェも併設されている。
かつてはザルツヴェーデルにあるバウムクーヘンの店をひとつにまとめていたときもあったらしいが、第二次大戦後の東ドイツ統治下で、店舗を採られたり投獄されたりと激動の時代を経て、現在はヴルシュレーガー家がオーナーとなっている。
店内には王家御用達のバームクーヘン工場として認められた証書やシェルニコルと思しき写真などが飾られていた。
広々としたカフェの中庭にはテラス席もあり、その近くには高さ二メートルほどの、バウムクーヘンクイズパネルをみつけた。バウムクーヘンの形をした金属パネルに、バウムクーヘンに関する問題が十四問ほど列記され、問題部分をめくると解答がわかるようになっていた。もちろんドイツ語で。
サクヤは一瞥し、席に座る。
問題を解きに来たのではない。食べに来たのだ。
さっそく食べてみると、バウムクーヘンはほのかなスパイスとバニラの風味がして生地のキメが非常に細かかった。不均一な層で、本物の木の年輪の様な断面をしている。食感はとてもしっとり、ソフトな口当たり。小麦粉と一緒に浮き粉を使っているせいか、口どけがよく、あっさりしていた。
お土産を購入し、サクヤは次の店へむかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます