第26話 胸に湧き上がる充実感

 ザルツヴェーデルには、バウムクーヘンの有名店がもう一つある。

 一八〇七年創業のバウムクーヘン専門店、エアステ・ザルツヴェーデラー・バウムクーヘンファブリク。黄色い壁の外観。バウムクーヘンを彷彿させる色彩だった。

 平日の午後一時までに訪れば工房内を見学させてもらえるが、サクヤが訪れたのは昼過ぎ。見学はできなかった。かわりに作業ビデオを見ることができた。


 現代のバウムクーヘンは、生地に棒を浸してから、クシのようなもので余分な生地を落とし、電熱線で焼いてリングを作っていくのが一般的。

 この店では生地をすくってかけていき、そのかけ具合でリングを形成していく。しかも直火の燃え盛る前で焼いていた。

 店の人の話では、電熱線では火が弱すぎるとのこと。

 強火の方が、生地から水分が蒸発する前に焼きあがるので、しっとり仕上がるのだろう。

 現代ではガスバーナー式のバウムクーヘン用オーブンもあるという。

 バウムクーヘンの芯も、現代主流は金属製の棒にアルミホイルを巻いて作られるが、ここでは棒は木製で、その周りに紙を巻いてから紐を巻きつけ、棒に紙を固定するという方法をとっていた。はがすときは、アルミホイルより簡単そうだ。


 当然、ここのバウムクーヘンもサクヤは食べた。

 甘すぎず、やわらかく、純粋においしい仕上がりだった。

 見た目も味も素晴らしかったからこそ、王室御用達になるのもうなずける。二百年前ならなおさらだ。


 サクヤは納得し、お土産を購入した。

 胸に湧き上がる充実感に、サクヤは小躍りしたかった。

 そんな思いを足取りに変え、急いで駅へ向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る