第29話 配慮と労い

「んー、クラブハリエのほうが美味しいかな」

 そっけないカスミの言葉に、サクヤは深くため息をついて肩を落とした。

「はあ~、お姉ちゃんがドイツまで行って買うてきたんやで……。そこは労をねぎらって、『美人で綺麗で可愛いお姉さま、不肖の妹のために遠い異国の地まで足を運び、かくも高価で貴重な品々を買ってくださりまして、まことにありがとうございます。こんな貴重で美味しものを買ってくださり、恐悦至極に存じ上げたてまつります。さぞや旅先ではご苦労されたことでしょう。ご無事に帰国されて大変嬉しくおもいます』といってやね、冷たいビールとつまみに鱧や鮎をお姉ちゃんに用意するくらいの気遣いができなくてどうするっ」


「気遣いっていうても……やっぱり食べ慣れたものが美味しいっておもったらあかへんの?」

 サクヤの言葉にカスミは目を細め、ふんと鼻から息を吐いた。

「だったら感想なんて聞かなきゃいいのに」


「そもそもカスミがいい出したことやん。感想も、もうちびっとましな言い方があるやろ。それぞれのバウムクーヘンの見た目や美味しさを褒め称え、素直に『どれも美味しいですね』と前置きし、グラスにビールを注いで『お疲れさまでしたお姉さま、はいどうぞ』と勧める配慮を身につけなさいっ」


 カスミはへの字に口を曲げ、

「どこの料亭だよ、まったく……わかった」

 しぶしぶつぶやいた。

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