第15話 伝承するとき守られる真実

 複雑に入り組んだ社会のひずみや世界情勢の不安に直面した時代にあって、「書物から学ぶ学問を捨てて幅広く社会の実相をみろ」と説いた寺山修司はいっている。


『歴史について語るとき、事実などどうでもいい。問題は伝承するとき守られる真実である』と。


 バウムクーヘンの歴史は、キリスト生誕以前のギリシアにはじまる。

 生地を紐状にして、木の棒に巻き付けて直火で焼くオベリアスというパンに似た食べ物が起源だとされている。


 十五世紀頃には、修道院などで作られていた香辛料だけで砂糖の入っていないパン生地が改良され、領主クラスの料理人になると、卵、バター、生クリーム、香辛料と共に、高価な砂糖も使いはじめた。これら最初のバウムクーヘンの呼び名は、地方や生地ごとにいくつもあり、統一された呼び名はなかった。


 最古の記録は西暦一四二六年、イタリアの料理本に記載されている。

 また、ケーキのための最初のレシピとしては西暦一四五〇年、ドイツに登場する。この頃ニュルンベルク市、フランクフルト・アム・マイン市ではすでに、貴族の間では有名な結婚式用ケーキだった。


 十六世紀に入ると製造方法が変わり、生地は環状で回転する棒に付けるのではなく、長方形に伸ばした生地を棒に寝かして、紐で固定され、卵液や油を塗りながら焼いていたようだ。


 十七世紀になると、更に新しい製造方法が広まる。薄い液状の生地で、回転する棒に層を成して塗りつける方法だ。砂糖が生地に配合されています。バラの油で香りを付けた水と糖衣でコーティングされました。香辛料にはナツメグ、シナモン、カルダモンが使われた。


 現代風のレシピになるのは十八世紀。西暦一七六九年のニーダーザクセン州の料理本・第七版にレシピが記載されている。すりおろしたチョコをかけ、チョココーティングがされていたとある。


 十九世紀になれば、バウムクーヘンは家庭では作られず、ケーキ屋が作っていた。製造技術も上がり、手軽に作れるものでなくなったからかもしれない。ザルツヴェーデルでは、この当時のレシピを使った直火で焼くバウムクーヘンが、今でも食べられるという。


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