第11話 スイーツは早急に
「それから、東京のねんりん家は外はさくっ、中はしっとりした食感が特徴だった。静岡の治一郎のバウムクーヘンはしっとりずっしりとして、ボリュームもあり、ふんわりしてたね」
えへへとだらしなく笑みをこぼしながら指を折って数えていくカスミを、サクヤのイヌワシ並みの鋭い視線は見逃さなかった。
「ちょっと待った。わたし、それ食べてないけど」
「えっ、えっと……そうだったかな」
「食べてないんだけど」
きつく睨んで問い詰めると、カスミはしぶしぶ白状した。
「ネットで注文して、届いた時は……お姉ちゃん、旅行でいなかったから」
「お姉ちゃんの分まで食べた? そこは、帰国するまで、冷凍保存して取り残しておくのが、妹の使命であり存在意義とちがう?」
「使命って大げさな。けど、そうしようかなと考えたけど、冷凍庫はいっぱいやったし、冷凍したら美味しさや風味が失われてまうから、美味しくないものをお姉ちゃんに食べさせる訳にはいかない。妹としては、かわりに食べるしかないって……苦渋の決断をしたんだよ」
「そうだったのか……」
自宅消費用の賞味期限は短いし、スイーツは早急に食べるに限る。
サクヤはうなずき、納得し……そうになるところを思い出す。
マダムシンコのバウムクーヘンは冷凍して美味しく食べれるじゃないか。ひょっとしたら、冷凍バウムクーヘンは美味しいかもしれない。そうだよ、冷凍して、取り置いてくれてもよかったはずだ。
サクヤは、細い目を一層細めて睨みつけ、カスミに近寄っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます