第12話 十月の祭り

「かーすーみー」


 サクヤは一歩、また一歩と近づき、両手を広げて飛びかかろうとする。


「お、お姉ちゃん、とにかく、最近のバウムクーヘンにくらべると、ユーハイムってちょい固いというか、しっかりしてるね」


 ――むっ。

 話題をそらしたな。

 ここで答えなければ、食い意地の悪い姉として愚妹に偏見のまなざしで見られてしまう。

 サクヤは両手をぐっと強く握りしめ、ゆっくりと下ろしていった。


「一応、本場ドイツのバウムクーヘンやしな。『バター以外の油脂を使わない』『膨脹剤を使わない』といった厳しい条件を満たしたものだけが、バウムクーヘンと認められてるから」

「本場か……。そういえばお姉ちゃんって、ドイツに行ったことあるよね」

「当然やん」


 サクヤはうなずく。

 ミュンヘンで開催される世界最大規模の収穫祭、オクトーバーフェストの旨いビールとソーセージを食べに出かけた日のことが、脳裏をよぎる。

 

 ドイツ南部にあるバイエルン州の州都ミュンヘンのテレージエンヴィーゼという旧市街南西にある公園で、毎年九月下旬から十月上旬の二週間に渡って開催される最大級のビールの祭典には毎年、世界中から六百万人以上の人が訪れるという。

 思い出すのは、ハーブの香りが口の中に広がる白いソーセージのヴァイスブルスト。程よい味の利いたドイツの発祥の焼き菓子プレッツェル。カリッとしたものは食べたことはあったが、しっかりパンになっているものを食べたのは初めてだった。


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