第10話 思い出しよだれ

「海外へ一人で行くんだから。やっぱりお姉ちゃんは賢いね」

 カスミが誉めた瞬間、サクヤは腰に手を当て胸を張った。

「それほどのことは、あるかな……ふふん」

「さすが、優秀やね。バウムクーヘンなんて、食べた店の味くらいしかおぼえてないのに」


 これまで食べてきた各店舗のバウムクーヘンを、カスミは思い出してはつぶやきだした。


「神戸のマ・クルールはゆっくり熟成させてるから、しっとり感があって、抹茶味は香り高く上品な味わいを出してた。滋賀のクラブハリエは昔ながらの製法を守ってて、一層一層焼き上げたふんわりしっとりやわらかい。大阪のマダムシンコのは、暖めるのと冷やす二種類の食べ方ができ、とにかく甘かった」

「たしかに。好き嫌いがわかれるね。じゃりじゃりしたキャラメリゼは悪くないけど」


 サクヤは食べに行ったときのことを思い出した。

 大阪店にはバウムクーヘンだけでなく、チーズケーキやタルト、他のケーキもショーケースに陳列され、喫茶スペースもあった。店内で注文したのはダブルチーズ。上部はなめらかで甘さ控えめなチーズムース、下部は濃厚で対照的な食感だった……。

 あー、いかん。

 思い出したらよだれが……と、サクヤはあわてて口元を手で拭った。


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