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ご主人様はすべての貴族が嗜むようなことの内、遠い昔の時代に作られた詩を口ずさむことを特に好んだ。今ではもう見られない牧歌的なところが好きなのだと仰っていた。たしかに私の送っていた田舎での生活はひもじすぎて、とても詩に書いて褒めていられるようなところは無い、牧羊も痩せているし……そんなことを正直に報告すると、ご主人様はこらえきれず笑った。
ある日、見たこともない言語で書かれた詩の一節をご主人様は私に開いて、それを暗記するよう示した。メメント・モリ――ご主人様の一番好きな言葉だそうだ。
私は今まで知らなかった2つのことを知れて大いに喜んだ。ひとつは、自分とはわけ隔たった広大な異国語の世界があるということ、もうひとつは、ご主人様の一番好きな
それでも、嫌なことにはめげずに、私はだいたいの日々を幸せで過ごした。深まってゆくご主人様との仲とメイドとの確執のあいだで、私の優越感は日増しに増していった。
私は必死になって、せめて貴族のような趣味と生き方だけでも身につけようとした。ご主人様と釣り合いのとれた地位の女性たちに、その上っ面の立回りでだけでも追い付こうとしたのだ。その甲斐あって、今では良い紅茶と悪い紅茶の違いくらいは分かる。全て彼に教えてもらったこと。でも貴族と結婚できるのは貴族だけ。それは動かしようもない事実で。けれど妾になるのだったらなんとか出来るかもしれないと思い始めたのも、物事がようやくわかってきた頃だった。でも、終わりは意外に早く訪れた。
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