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はじめの頃の私は、残念ながらベッドの上で朦朧として死にかけていたから、なんというか、それどころではなかった。お医者様が呼ばれて、三日三晩の投薬や瀉血がされる。はじめて彼とお話したのは、その数日後。一時的に症状がしずまると、私もなんとか目が開くようになって、ご主人様は床に臥せった私に向けて、よく好奇心から話しかけて来てくれて、それで退屈なんてしなかった。
そのころ私は敬語というものがまったくできなかったから(今も書き言葉では苦手だ)、どう喋っていいか、何を話せばいいかなんて分からずに、ご主人様の言葉にも単語でしか答えられない。こんな調子に。
「君の名前はなんて言うんだい?」
「エミリ」
「エミリ? そうかい、良い名前だね、エミリ。気分は良くなったかい?」
「少し」
「君があんなところに居るなんて驚いたよ。売られてきたのかい?」
「……はい」
「もう何も心配しなくていい。けど、辛かっただろうね、君みたいな少女には、あんな劣悪な環境などもってのほかだ。だってこんなに美しい女の子がね。しかし、ここでは何でも手に入る、悲しむことはない…」
「何でも…」
「そうだ。遅ればせながら、私はこの館の
そう言うと、ご主人様は笑って。
「マスター……」
「そうだ。さあ、ゆっくりとお休み。言葉もそのうち話せるようになる」
「! あの…そうじゃないの。言葉は、話せるの…」
そんなこともあった。――どうやら失語症か何かと思われていたらしい。
最初の頃は、お屋敷に
読めるのに、書けない。
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