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知っての通り、私は田舎から奴隷として引き連れられてきた。都の名前は、綴りは忘れてしまったけれど、たしか『ヴェレイユ』だったと思う。
田舎から引き立てられた奴隷の女の子たちは、まるで動物のように檻の中に入れられた。二人か三人をまとめて大きな檻の中に入れることも、一人用の檻に
路地裏にある或る人買いの店で、私たちは四六時中陳列された。店では「愛玩動物」たちは私語をすることは禁じられていたけれど、それでなくても多分、誰も何も喋らなかったと思う。みんな心が壊れかけていたから。そして虚ろな目をしていた。
裏路地に人目を忍んでやってくる醜怪な老人たちが、私達の体をなめ回すような目付きでじろじろと観察し、値切り、品物を
その日は朝から小雨が降っていたのを覚えている。曇り空が灰色で肌寒かった。私は実はその頃、慢性的な風邪をわずらっていて、だからその日も楽しいことなんて何もなく、ただ塞ぎこむ頭痛の気分しか感じなかった。もちろん薬など支給されない。生まれつき存在感の薄い私は、ずいぶん前から店主に半ば無視されていた(いや、そもそも、はじめから人間として扱われたことなどあっただろうか? ――多分、無かったと思う)。店に来る客の醜怪な老人たちは、この頃ますます醜怪さを増していたけれど、彼等も私のことを無視する。結果、すっかり売れ残ってしまっていた。売られることなんて嫌なはずなのに、いざ売れなくなってみると、悲しい、みじめで、嫌な気持ちになる。
たぶん、ずいぶんと熱っぽくて調子の悪そうな
「うるさい!」
と叫び、
「こんなやつに食事などやるな! どうせ助からんわ、食事代の無駄だ。いいか、風邪が治るまでこいつの飯を抜いておけよ。水だけにしろ。どうせ病気では食べ物を満足に消化できんからな。――おい、そこの穀潰しめ、おけらめ、何時からそこにいると思ってるんだ? あぁ? 長いこと籠を占領しやがって、このスベタ。出来損ないのごみ屑が、寄生虫が。お前の両親に高い金をくれてやって、オマケにお前に華やかな都までのどかな旅もさせてやったってのによ、それがいっぺんも恩返しをしねえとは。大した心意気だな、はっ! せめてもの抵抗ってわけか。 いいか、てめえのせいでこちとら大赤字だ。このクソガキ、いっそくたばっちまえ、俺がてめえの病気なんぞ直すと思うか? うんざりだよ……お前が最後に叩き売られてく額なんて、どうせ薬代の足しにもなりゃしねえんだ……まして今まで全部の食事代なんぞには……これでまた極貧だ。おお、神よ どうして俺ばかりがこんな目にばかり遭うんだ? クソ、これじゃあのいまいましい親父と同んなじだ。クソ、俺は生まれてこの方――」
そのあと彼は、訳の分からない文句をつぶやいて、ほとんど癇癪をおこしていた。狂ってしまった。その気迫には老婆は何も言えず、ただ溜息をついて、黙って奥へ引っ込んでしまっただけで。回りの女の子たちは――そして私も――その奇妙な光景を不気味にして、意識から遠ざけた。
その次の朝、なけなしの食事を抜かれたので、私はここからの脱出を決意した。
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