第2話 敵の多い娘の日常



 英雄が帰らなくなってから、十数年が経過した。

 その月日は、物心つかなかった少女が、年頃の少女へ成長するには十分な時間だった。


 英雄の事をほとんど知らない娘ティーチェは今まで、意地悪な親戚達の手によって育て上げられてきた。


 その生活はひどく劣悪で、幸福とは程遠いものだった。


 育ての母と父はティーチェを虐め、満足な食事を与えない事がほとんどだった。


「親戚だっていうなら、少しは似ているところがあってもいいのに。お前は本当に、私達に似ていないね。英雄の血が憎たらしいよ。だからそんなに可愛くないんだ」


 それだけでなく、狭くて隙間風の吹く倉庫に押し込めてもいた。


「こんな子供に一つの部屋をやるのはもったいないな。使わなくなった倉庫で十分だ」


 ティーチェは毎晩悲しみの涙を流した。


「どうして私は父様と母様に嫌われているのだろう」


 しかし、少女は落ち込むばかりではなかった。


 けなげにも父と母の愛情をもらおうと毎日努力を重ねていた。


 研鑽を重ねる日々のおかげか、戦いの腕はエリート並みになった。


 英雄の血を引く娘にも、また英雄になる素質があったのだ。


 けれども、訓練所の者達も彼女に冷たかった。


 戦で勝利をもたらさなかった英雄は英雄ではない。


 そう考えられていたからだ。


 だから、その英雄の娘を憎んで嫌がらせする者もいた。


 育ての父と母の態度もまたずっと変わらず。

 愛情のひとかけらも与えられなかった。


「ちょっと活躍したからっていい気にならないでよね」

「調子にのるなよ、もっとがんばるべきだ」


 そんな育ての親達は、最後まで娘を愛すことはなかった。


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