第3話 敵の多い国を見捨てて



 やがて、国の行く末を決める戦が行われた。


 多くの国が、そのかつての大国ゼノムを狙っていたため、激しい戦いになった。


 その一戦は、国が亡ぶか存続するかが決まるものだった。


 英雄の娘は国を守るために、ボロボロになるまで戦い、最後には国を守り抜いた。


「これで、皆から認めてもらえるはずだわ」


 しかし、その願いは叶わない。

 彼女を称える者はどこにも存在しなかった。


 同僚達は冷めた視線をおくるだけ。


 そして、それは育ての親も同じだった。


「褒めてほしかったら、この国にかつての栄光を取り戻してちょうだい」

「お前ならもっとできるだろ。ちょっと成し遂げたくらいで、得意げになってるんじゃない」

「お母様も、お父様も、どうして私を愛してくれないの?」


 娘は彼らに歩み寄ろうとしたが、その努力は報われないまま。


 日常は変わらないままだった。


 そんな中、英雄エイルワーズが帰還した。


 十数年前の戦いで、大けがを負った英雄は、中立の医師団に助けられ、長い間意識不明でいた。

 その際、英雄はずっとどこかの辺境の施設で治療されていたらしい。


 けれど最近意識が戻ったため、国に帰還したのだった。


 しかし、娘ティーチェの状況を知った彼は激怒した。


 結果、その親戚達を糾弾し、国を見捨てて出ていく事にしたのだった。


「愛する娘よ。迎えに来るのが遅れてすまない。でもこれからはお前を守ってやれるはずだ」

 

 国にも家族にも認められなかった娘は、英雄について行くことに決めた。







 過ちに気づいた国の者達は、その時になってよっやく必死に彼らの偉業を称えた。

 だが、それは遅すぎた。


 英雄の親子は何一つ耳を貸さずに、その国を去っていった。


 そして、誰も知らない場所に移り住んで、静かに余生を過ごす事を選んだのだった。


 数か月後、ゼノムは再び滅亡の危機に瀕したが、その国を救う者はいなかった。


「英雄殿、どうか我らの国をおたすけください」

「帰ってきてください! これまでの功績に応じた褒美を用意していますから!」


 時折り、英雄の元へ助けを求めてやってくる者達がいたが、その努力が実る事はなかった。


 やがて、一つの国が滅んだ。


 だが、英雄の親子はそれからずっと幸せに暮らす事ができていた。


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