その四、家へ

 いやいや、たまたまでしょう。


 大人気なアイドルの20の中の人で世間を騒がす怪盗ランマと、彼女は、そう言っているわけですから。到底、信じられません。北米大陸が大地震に襲われ、大津波によって一夜で海の底に沈んでしまうと忠告されても信じる事ができないように。


「やっぱり、信じてもらえないのね。まあ、でも分かってたけど」


 と彼女は自分の梅サワーをグビっと音を立てて、飲み干します。


 なにか吹っ切ったような感じでです。ドキッと一つ心臓が高鳴り弱気になります。


 そして、


 手持ち無沙汰で、また、クセになるポテチを一枚だけ食べます。


 ポリと。


 ただし、


 思うのですが、もはや限定ポテチなど名店のラーメンに対してのカップ麺の如し。


 大量生産されて巷に溢れるカップ焼きそばとも言えるでしょう。


 それほどまで信じられないような事実を暴露されたのですから。


 なんだか、空しくもなります。


 パリと。


 やっぱり信用されていないんじゃないのだろうかと、また弱気にもなってきます。


「そうね。今、そのポテチも、あたしがプロデュースしたと言っても信じてもらえないんだろうね。だったらさ。あたしの家に来る? 全部、証明してみせるからさ」


 と彼女は、微笑んでから、僕の手元からポテチを奪って口の中へと放り込みます。


 パリと。


 すわ証明してみせるとは……。


 つまり、


 20の中の人で、怪盗ランマこそが愛おしいと思っている彼女だという事をでしょうか。どうやって証明してくれるのかは分かりません。それでも興味深いとは思います。しかも願っても止まなかった家に行けるのです。うなずくしかありません。


 だからこそ、一にも二にも無く彼女の提案に乗る事にしました。


 多分ですが、プロポーズの応えこそが、証明となるのでしょう。


 あなたのアイドルで、あなたのハートを盗んだ怪盗こそ、あたしなのよ、とです。


 いや、それは、ちょっと妄想が過ぎるかもですね。


 どうやら妄想癖が過ぎるのは、この僕のようです。


 ハハハ。


 ただし、


 どちらにしろ、プロポーズの応えこそが、肝となるのでしょう。そうも思います。


「うん。だったら今から行こっ。明日は休みだし、時間、大丈夫だよね? 今まで理由が在って家に誘えなかった、お詫びも込めて歓迎するよ。来るよね? 行こっ」


 おおと?


 遂に、家へと行けるようです。


 やっぱりプロポーズの応えは、そこでといった感じですね。もちろん家に招待されたという事はOKの確率が、かなり高いです。心の中で、ほくそ笑んで、小さくガッツポーズ。夢心地にもなりました。そうして居酒屋を出て彼女の家へと……。


 もちろん、既に無くなってしまったポテチの袋をゴミ箱へとダンクシュートして。


 さあ、いざゆかん、彼女の家。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る