その二、20

 その時はヒマでした。次の日もお休みです。なにより彼女から大事な話があると言われては断れませんでした。多分、プロポーズの応えだと悟ったからです。また心臓が高鳴って息苦しくなりました。でも応えが聞けると思うと勇気も湧きました。


 ダメならダメでいいさ、とばかりにやけっぱちにもなりました。


 しかし、


 多分ですが、限定味のポテチを手に入れられた幸運が、背中を押したのでしょう。


 運は、僕に向いてきていると。


 ダメなわけがないじゃないかとです。……、まあ、都合のいい解釈なのですがね。


 だって、


 僕は、いまだに彼女の家に行った事がないのです。


 一人暮らしな彼女に家に行きたいと告げると決まって、はぐらかされていたわけです。結婚しようとする女性の家に行った事がないというのは、いささかどころか、半端ない不安を誘います。やっぱり自分は信用されていないのかと、ですね。


 それでも、そんな些末な問題は結婚の話を具体的にしてから考えても遅くはない。


 と心を決めて買い物袋の中からポテチの袋をつまみ上げました。


 うんっと心を決めます。でも。


 ポテチを見ます。見つめます。


 いや、運は向いてきている。大丈夫だ。覚悟を決めろ、僕、と。


 そして、


 待ち合わせをした居酒屋へと着きます。あのポテチを手にして。


 案内された個室の席には、すでに彼女がいました。


「遅かったね。あたしの分は、もう注文したよ。まずは呑もうよ」


 話は、それからでもいいよね。


 と、言われて、うなづきます。


 ただ彼女はどこかよそよそしくて焦りすらも見えます。やっぱり返事がもらえるのだろうと感じました。注文を済ましてから飲み会が始まりました。僕と彼女の二人でだけの飲み会です。お酒も入ってきて、ほろ酔い気分で緊張もほぐれてきます。


 そうして、飲み会が中盤にさしかかった頃、彼女が意を決したよう口を開きます。


「あのね」


 と言いにくそうにぽつりぽつりと切り出しました。


 僕は持ってきた限定味のポテチを一つ口に放り込み、静かに、その時を待ちます。


 パリと。


 審判の時を、ただ静かにです。


 ドキドキとして苦しくも幸せを感じる瞬間でした。


 一つ、大きく息をのみました。


「最近、20(ニジュウ)ってアイドルが大人気なの知ってる?」


 あれれ?


 僕が期待していた答えとは、とても縁遠い謎ワードが彼女から吐き出されました。


 いや、恥ずかしいからこそ雑談で誤魔化しつつ、しれっとという感じでしょうか。


 そう思いました。だから知ってるよ、と応えます。

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