第4話 新琵琶湖
小さな夜行生物達の
缶ビール3杯分のほろ酔い加減。俺は何時しかミズッチョとのトークも途切れてウトウトしていたようだ。気付けば夜風の冷たさが身に染みる。
「うー寒ッ!大自然の夜は
「僕、平気だよ」
「風邪引くぞ」
「風?風は起こせないよ。まだ子供だもん」
「湖底人の子供は風邪引かないのか?羨ましいな」
「ねえ、もっとお喋りしようよ。僕、お喋り好きだよ」
「いいぜ。俺も野外の真夜中トークは大好きだ。でっ、そろそろ琵琶湖の水抜きは諦めてくれたか?」
「うーうん。駄目だよ。諦めないよ」
「あん?いっぱいご馳走してやったのによー」
「美味しかったよ。でも水抜いて掃除してよ」
「だからさあ……そうだ!本気で水抜きしたら人間だけじゃなく、他に困る生物が沢山居るんじゃないのか?琵琶湖に住んでるのはミズッチョ達だけじゃないだろ」
「例えば?」
「そうだな……魚には季節によって浅瀬に移動して生活する奴もいる。水を抜いてる間にそいつ等をどうするかの問題があるぜ。あと微生物達。数多くの微生物がいるおかけで琵琶湖は豊かなんだよな。コイツ等を絶滅させてもいけない。それに渡り鳥や昆虫達、水性植物もいるな。例えを挙げたら切りがねえや。水を抜いてる間に今度はコイツ等がいなくなるんじゃないのか?」
「よくわかんない」
「お前、自分の
「わかった。覚えるから教えて」
「いや、スマン。小学校の時に習った事を思い出しただけだ。俺もハッキリした事はわからん」
「じゃあさあ、こうしない?」
「ん?」
「選択技は3つ。1、琵琶湖の水を全部抜いて掃除する。2、納得できる代替提案を出す。3、日本中の地下水を止め、それを使って琵琶湖を新しく作り変える」
「琵琶湖を新しく作り変える?」
「そう」
最後の案は軽く耳にしただけでは、良さそうな案だが……違う。そうじゃない。地下から275億トンの水を一遍に吹き上げさせる気だ。そうなれば今有る琵琶湖の水が周囲を襲う。つまり大洪水だ。俺達人間には大災害じゃないかよ!経済崩壊だけじゃ済まない。数万人単位の人が死ぬ。いや、人間だけじゃない。琵琶湖の中や周りに住む生物達もが一斉排除されるって事だろ?コイツ、可愛い顔してなんて事を言うんだ。
「最後の案だけは絶対駄目だッ!!」
「僕もそう思う。けど大人の湖底人は『もう、これしかないかな』って言ってるよ」
「琵琶湖の生物が全部いなくなれば、お前ら湖底人も困るんだろ?ギル退治の為に全部の生物を排除する気か?食べる物が無くなったら元も子もないだろ!」
「新しい琵琶湖に魚が戻って来るのを待つよ。その間は別の湖で魚を食べる」
「2番しかないのかよ……ったく、期間は何時までだ?」
「100セタシジミ。大人の湖底人は本気でやるよ」
「……それ、何日?」
「100セタシジミ」
「……」
何日後か分からないが、明日から動くか。だが、いったい何をどうすればいい?何のコネも無いぜ俺。せいぜい琵琶湖の周りで働く人達だけだ。そうだな……まずは、まずは湖底人が本当に居るかだ。それからだ。うん。ふあー、ねむッ……湖底人か……いったい何者なんだ?……何者――
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――ん?ここ、何処だっけ?あっ、そうか。俺、あのまま寝落ちしたんだ……。
朝霧に包まれた奥琵琶湖の風景は、まるで北欧神話の世界に放り込まれたみたいに神秘的で、急に湖面から妖精さんが現れ『金ですか?銀ですか?』しても違和感はないだろう。故に寝起きの俺には昨日の出来事が夢か現実か判断出来ずにいた。
「そうだ。ミズッチョは?」
辺りには誰も居なかった。霧で遠くまでは見えないが、湖上にも奴の姿は見当たらない。なんか狐につままれた気分だ。
そうだよ。一人で泊まる別荘に、水着の美少女が現れるなんて都合が良すぎる。たぶん、あれは俺が心の中で創り出した偶像だったのだろう。そう自分に言い聞かせてから、足元に有るクーラーボックスに目をやった。ボックスの上には30センチ超えの大型ハスが乗っている。釣り道具を持ってない俺が所持してるのは絶対におかしい。誰が置いた?
俺は嫌な予感がしてリュックの中を調べた。朝飯用のサンドイッチが思った通り無くなっている。クッソォー。勝手に交換すんなよ。ハス、美味しそうだけど米持って来て無いんだよな。ハスだけの朝飯なんてヤダッ!
「まあ、とりあえずミズッチョの存在は夢じゃ無いって事か……」
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