はじめての仕事
やる事は非常に単純だ。
色とりどり。千色万別。各々が自由な色を放つそれらを、同じ色でまとめるだけ。
「……。…………」
言葉はいらない。必要なのは集中力と、動かす指先。それくらい。
ことり。ころころ。たまにテーブルの上で鳴る硬い音は、作業が進んでいる事を意味している。
いくつかの器に大体四色──赤、青、緑、黄。あれ、属性の色って六色だった気がするけど──の魔石を選別しながら、何かを考えようとする。
「…………。……」
考えはまとまらない。まとまる前に、次を手に取っている。
集中。頭は回っていない。思考が回りだす前に、次へ次へと作業を進めていく。
頼まれた事だから、なのか。初めて人の役に立てているという安心感。……どうだろう。説明しようとしても、そのどれもが間違っている気がしなくもない。
ただ単純に、私はこういった作業が好きなのかもしれないけれど。
「──リナ?」
「ふぇ」
声をかけられ、ちょっと沈んでいた意識が浮かんでくる。
……思ったより長い間、同じ事を繰り返していたらしい。目の前には四色の山と、少し心配そうなジャスティの顔。
差し出されたジョッキの水を遠慮なく飲み干す。──びっくりするほど喉が乾いていたらしい。無意識って恐ろしい。
「いや、丸投げしたのはウチだけどさ。……凄いねこれ。可視化ってこんなスマートに進むんだ。びっくりだよ」
「え、もしかして悪い事した?」
「逆ー」
彼女の顔が、また少し緩む。
ただそれは、警戒する程のものではなくて。
「……魔石の選別ってさ。手間と時間、結構かかっちゃうんだよね。その上、少し進めたと思ったらいくつも不純物が混ざってたりさ」
「──こんなに簡単なのに?」
ふう、と溜息。
「リナの視界がどうなのかは知らない。だからウチの目の話をすると、──全部、
「えっ」
目を走らせる。発色は鮮やか。むしろ、ずっと見ていると目がチカチカしそうな程に。
多色がひたすら無秩序に混ざっていた時と比べると、だいぶマシにはなったけど。それでも目に刺さりそうな色は、どれも自己主張が激しくて。
「……セルジュさんの部屋で触った石って、サヤが触れた時に緑色になってなかった?」
「原石としての規模が違い過ぎるよ。このサイズは屑魔石だから、それぞれ発色しないんだ。同じ黒色の鉱物にしか見えないねぇ」
いつも以上に綺麗に分かれているけど、と繋げる。
──本来
……どうしてか。少しだけ、寂しさを感じた。
「一日かけるつもりだったんだけどなぁ……参ったなこりゃ。逆に頼む仕事無くなっちゃった。昼も過ぎてないぜ、まだ」
肩をすくめられた。優秀かどうかはさておき、想像より早くやる事は終わってしまったらしい。
固められた魔石を革袋に詰め直す彼女を見ながら、じゃあ、と提案をひとつ。
「ジャスティ。私、実はこの国のことあんまり知らないから──ちょっと歩いて見て回っても良い?」
日は昇り、街の各部で人の声。
西の国は、全体が活気に溢れ始めていた。
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