談笑

「できたよー」

「まってたー」

「溶けてるーっ!?」


 机に突っ伏して待機してました。おなかはげんかいです。

 美味しそうな匂いと、私を揺すぶる手の暖かさ。ことりと小さく震えたテーブルで、ようやく体を起こす気力が復活。

 湯気の中、色とりどり……というほどではないけれど。わかりやすい、挽き肉がちゃんと煮込まれた、シンプルな料理。

 添えられたパンも、控えめだけど良い匂い。ついつい姿勢が正しくなる。

「…………!!」

「大丈夫、待てなんて言わないよ。まずは倒れる前に食べたまえ」

「えんりょなく」

 言葉と共に差し出されたスプーンを借り、まずは一口分。

 する、と銀色は抵抗感なく入り、大きめな塊がすくい上げられる。

 ……はむ。

「……〜〜!!」

「お、どっちだコレ。なるべくクセの無いもの選んだつもりだけど」

「! !! っ!!」

「おちつけ。のみこめ」

 思ったよりあつかったんです。はい。

 でも食事中に口を開くのはマナー違反。親しげに話してはいるけれど、出会ったのは昨日。さすがにそこまで気楽というわけにはいかないので。

 やけどしそうなくらいな熱を必死に飲み込み、素直な感想。

「おいしい!!!」

「そりゃ何より。ウチも……んぐ」

 目の前で彼女も食事に移る。

 私ほどのリアクションではないけれど、小さく頷く姿は、それなりには満足しているようで。

 ……つまりそれは、これで傑作ではないという事。ちょっとくやしい。きっと、私より味付けのセンスがある。

 挽き肉を濃いソースと一緒に煮込んだそれは、ひとくちめはソースの味がやたらと強く。でもすぐにお肉の味が広がり、中に練り込まれた香草の香りがそれらにゆったりと被さってくる。

 レシピ聞いておこうかな──と、考えた所で。

「ん、もう無くなった? 一回仕込んで保冷庫に放り込んである分だから、そんなに手間かけずに作れるよ。もう一個食べる?」

 パンを片手に、お皿の中身はすでにからっぽ。

 美味しいとあっという間に無くなってしまう。くやしさ半分、あこがれ半分。無言でお皿を出しておかわりを要求。

 苦笑と一緒に彼女は下がり、すぐにもう一個を持ってきて貰えた。我が事ながら厚かましいけど、美味しいんだからしょうがない。

 もきゅもきゅとパンとお肉を口に運びながら、満足げなジャスティの顔をちらりと見て。

「ふっふー。やっぱ美味そうに食べてくれる子はいいねぇ」

「……ねぇ。変な薬とか入ってないよね?」

「マジで有害な事はしない主義だよウチは。積極的にハメは外していくけど」

「積極的に外していいものじゃない」

「もふ」

「待って?」

 完食後、すかさず両手がわきわきしていた。

 ただ、昨日の事を考えると……こんな待機なんてせず、すぐに飛びかかってきそうな物だと思ってたんだけど。

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「お粗末様。ウチも良い顔見れて満足だよ」

 ……なんとなく触れない事にしよう。これでうっかり砂から土竜もぐらを呼び出しても困る。

 ひょいひょいとお皿をまとめて持っていく彼女に、しかしそれでも聞かなきゃいけない事がある。いや、ジャスティに聞いてわかるものかどうかは微妙だけど。

「ジャスティ。あの、さ」

「んー?」

 窓から陽射しが差し込んでいる。

 意外と、早朝という時間は過ぎかかっているらしい。部屋の外も雑音が響き始めた。人が動き出している時間だ。

 だからこそ。

見習魔鑑マギクスラナーって呼ばれはしたけど、私……何したらいいのかな?」

 率直な疑問。

 完全に赤の他人ではない、からこそ。

 それこそ、ずっと「客」のままではいたくない。

 そもそもここに来たのだって、誰かの役に立ちたかったから。何もできないまま誰かに甘え続けるのは、目標からして論外だ。

 ……ただ、何から手を付けていいのかもわからない。ここはあくまで、他人の領域。

 勝手な事をして、勝手に荒らして、それで胸を張るとか──ちょっとそれは、身勝手だ。

「……イイね。積極的なのは良い事だ」

 にやり、と彼女は笑い。

 ただそれは邪悪な形ではなく、むしろ──さっき見せてくれた、満足そうな色で。

 お皿を早々に置いてしまい、部屋の低い棚の引き出しを開け、中から小さな袋を取り出して。

「よっし、じゃあウチからの仕事だ。──あ、大丈夫だよ。リナからしたらきっと簡単な事だから」

 一瞬の警戒を見抜かれた。くそう。

 間髪入れず、テーブルの上で袋を粗雑にひっくり返す。

 ざら──と、撒かれるそれは、色とりどりの石の破片。

 ……もしかして。

「ジャスティ。面倒事を私に投げつけてない?」

「否定はしない」


「さ、屑サイズの魔石の選別だ。同色をかき集めればまとまった魔力の塊にできる。面倒だけど、大事なんだぜ? これ」

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