早朝の課題
「ん……くぅぁ……」
ベッドの上で、長めの伸び。
色々あった日の翌日。目覚めは悪くない。むしろ最高。
慣れない環境だと言うのにも関わらず、夢も見ない程に熟睡できたのは良い事か。窓を開ける。朝日が昇る直前、白くなり始めた空の色。
いつも通りの、目覚めの時間。
「……あ」
そういえば、と用意されていた水瓶を覗き込む。
昨晩。まともに髪をまとめずに寝てしまったから、よくよく考えれば大惨事になっているのは当たり前なわけで。
「あー…………」
普段と違う枕。
いつもと違う布団。
疲れに身を任せ、無防備に寝た事を後悔する。
「大爆発……してるなぁ……」
身支度を整え(義母から貰った櫛を使っても少し時間がかかった。長い髪の弱点でもある。切るかな?)、少し早めに施設内を徘徊。
まだ誰もいない。研究施設だから厳重な警備が敷かれているかと思いきや、意外とそうでもないらしい。西の国は人口が少ないから、そういった事まで手が回らないのもあるかもしれないけど。
でも確か、女王様のお城は「近衛騎士」って人がいると聞いた事もある……気がする。
重要度の違いか。知ってる事が少なくて、考えられる事も多くない。
「んー…………」
とはいえ、目先に問題が発生している。
考え事をしようとするのも、単にそれから目を逸らす為で。
率直に言うと。
「おなか……すいたなぁ……」
緊張がほぐれたら空腹に変わった。のだと、思う。
昨日はそもそもお腹が空くという感覚に気づく事さえ無かったので、そう考えると今はむしろ健康か。でも人前でお腹を鳴らして空腹感をアピールできるほどの図々しさはさすがに無いので、どこかで食べ物を探したいところだけど。
(しまったなぁ。ここ出て良いのか聞くの忘れてるし、そもそも外に何があるのか知らないや)
前提がすっぽり欠けていた。
……恥ずかしい思いをするだけで、誰に迷惑をかけるわけではないと思うけど。それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのです。
どうしよう、と出入り口までやってきて、誰にも合わない現実に若干打ちひしがれ……首を振って、なんとか気を持ち直す。
一度部屋に戻ろうかと、自分に対する理由付け。
「しょうがないかぁ……セルジュさんかジャスティさんに会えたら、それから確認したら」
「呼んだ?」
目の前。
「ぴっ──!?」
金色の目が、私を覗き込んでいた。
人は居なかった、と思う。気がついたらそこに居た。
ジャスティさん。本当に唐突に現れた彼女は、息もかかりそうな距離のまま。
「もふっていい?」
「イヤです」
私の頭に目を向けていた。
ついつい猫耳を両手で隠す。また髪をぐっしゃぐしゃにされたらたまったもんじゃない。人の髪を梳くのは好きだけど、自分の髪はあまり好きじゃない。
「というか、何処から出てきたんですか。さっきまで誰も居なかったのに」
「もふもふに呼ばれたから全力疾走してきた。以上」
「え、こわ」
率直な本音。
……もしかしたら透明化でもしていたのか、という疑問は即座に否定できた。昔から私の目は、何がなんでも「魔力」という物を見抜いてしまう。そこに人がいるなら、それだけで空気が歪むようなもので。
だから、魔法を使ってストーキングされていた訳じゃないのは知っていた。一応警戒もしていたし。
無駄だったけど。完全に。
「で、なーに? ウチにできる事なら何でもするよ。セルジュはああ見えてびっくりするほど多忙だから、迂闊に声はかけない方が良いと思うなぁ」
一歩だけ距離を取り、ジャスティさんの促し。
もう恥はこの人に見られている。何やってもきっとさっきみたいに唐突に現れるだろうし、諦めと共に困り事を口にする。
「……おなかすいたんですけど。なんか、キッチンとか無いかなーって」
ん、と驚きの声。
「自炊派?」
「え。いや、母さんが何も出来なかったから必死に身に着けたけど、どっちかって言うなら食べるだけの方が嬉しい……ですかね? 辺境の味は知ってるけど、中央の料理は知らないですし」
「ふーむ。しかしちょっと開店には早いかな、どこも。鑑定施設は生活用の機能とか殆ど無いし、キッチンって言われても無理がある」
ですよねー。
昨日の内に準備できているならともかく、今はようやく太陽が顔を出し始めた時間だ。市場という物があっても、満足に動き出している時間ではないだろうし。
何より、飲食店というと数が少なく、そもそも昼時くらいしか回ってない。どうしようか。
「……リナが嫌じゃなければ、なんだけどさ」
「ふぇ?」
そんな所で。
ジャスティさんの提案は、拒否する理由のない物だった。
「ウチの部屋ならあるんだよ、キッチン。折角だし、朝ご飯くらいは一緒に食べてくれない?」
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