『杖折り』
無言の案内。自然と従う。
歩幅が違うせいでついつい早足になってしまいそうになるが、実際は普段と大差ない足取りに落ち着いた。気遣ってくれているのだろうか。
「……。…………。あの、セルジュさん?」
「はい?」
振り向く事もなく、呼ぶとすぐに返事が返る。
不機嫌というわけでもなく、邪険にされているでもない。右手の笑いを堪えている様子のサヤはさておき、率直な本音をぶつけてみた。
「気まずいです」
「はぁ……」
「くっ──」
歩きながらサヤは肩を震わせている。隠せてない。隠そうともしていないのか。
対して、先頭を行くセルジュの足取りは変わらない。余裕か。なんとなく悔しい。
「まぁ、しかし。シビュラの紹介ですので──不快というなら改めましょうか」
「え? いや、不快ってわけじゃなくて」
わたわたと手を振り、否定。
「なんとなく、黙ったまま何処に行くかもわからないの、不安だなーって思いまして」
「ああ──失敬、確かに無思慮でした」
相変わらず歩調に僅かな変化も無く。
しかし、それでも質問にはきちんと答えてくれる。
「小生の私室です。都合の良い物が一通り揃っていますし、迎える用意も整えてあります故。貴女の適性を見るには、生半な設備では敵いますまい」
「……? ええっと」
答えては、くれるのだが。
なんとなく言い方が婉曲というか、独特というか。首を傾げていた所に、サヤの補足。
「つまり、リナの能力測定だよ」
「のうりょく……そくてい」
数秒、言葉の意味を噛み締めて。
はたと思い出す。そもそもなんでここに来たのか。
ついつい背筋が伸びる。夢を目前にしているという実感。今は呆けている場合ではないのだ。
「いえ、固くならなくても大丈夫ですよ。そもそも小生の私室でないといけない理由も、貴女達からすれば些事でしょう」
察されたか、振り向きもしないままの言葉。
それに自分よりも、サヤが鋭く反応した。
「なるほど、ジャスティか」
「……噂をすると飛んできますよ」
空気が強張る。先程もそう言えばその名前を聞いたような。
なんだったか。気をつけるべき人、だったか?
「サヤ、セルジュさん。その人の事、詳しく聞いても」
「『
サヤの回答は予想より早く。
しかし、苦々しい表情から放たれたそれは、あまり良い印象を持っていないようで。
「『ロッドブレイカー』……?」
「小生達と同じ
なんとなく、その表情や声色で。
それと、物騒な通り名で、どういう人物かの想像に至る。
……想像だけで身震いしてしまう。なるほど、警戒しろというのも納得はいく。
「いや、うん。少なくともリナにとっては確実に敵というか、」
「も──ふ────」
ピリ、と。
緊張感が、空気を固める。
「サヤ、後方を!」
「おーけぃ、セルジュ。そっち任せる!」
一本道。左右に逃げ場のない通路。
歴戦と呼ぶべき動きは、二人のくぐってきた修羅場の数を物語る。
一瞬で前後を挟まれ、困惑する間もなく警告が飛んできた。
「伏せなさいリナ! 狙われてる!」
「え。狙われてるって」
「も────ふ────」
西の国。中央。
前に最強の魔法師。後ろに最速の剣士。
知る限りではケタの外れたような実力者二名に挟まれているというのに、それらを越えるような凶悪な何かが、ここに居るというのか。
言われるがまま、頭を抱えて深く屈む。視界はあっという間に二人の背中で埋まり、何が何やらわからなくなって。
──僅かな振動。足音? 石造りの建造物を揺らすほどの?
「みぃつけたあああぁぁぁああああ♡♡♡」
嬌声。
聞いた瞬間、全身が粟立つ。
これは、アレだ。本能的な生命の危機。狙われているという確信が、無意識に全身をかけ巡る──!!
「止まれジャスティ! って──うそぉ!?」
「
サヤの姿が瞬きの間に離れ、
振り向く前にセルジュから光の帯が放たれる。
必殺とすら呼べる二人の連携。だというのに、サヤの体を一歩で飛び越え、空中であるにも関わらず体を捻って帯を躱し、ソレはこちらを睨みつけてきた。
──金色の目は、まさしく獲物を見つけた野生の獣。
であれば、その獲物というのはもちろん。
「もっふもふもふもふもふもふもふうぅぅ♡♡♡」
「ひ──にゃあぁぁぁあああぁぁああ!!?」
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