人狼ゲーム

 すぅ、と体から力が抜けた。ふわふわした、まるで寝ぼけナマコのような感覚。

 しかし私の意識はしっかりしている。やけに眩しい蛍光灯の光を真っ向から受けて、目が霞んだ。

 私は仰向けに倒れている。きっと今、私の腹には大きな穴が開いていて、そこから血がドクドクと溢れ出ている。

 ああそうだ、力が抜けているのは、血が抜けていったからだ。


「残念だったね」


 不意に光が遮られた。私を男が見下ろしている。蛍光灯の光で顔は見えないが、私はこの男に負けたのだった。


「君は実に面白かった。彼女が人狼と気付いていたのにも関わらず、発言しなかった。何故だい?彼女が君を連れて外に出て死体を探していた時にはもう感付いていたはずだ。泳がせているにしたって、君は行動がおかしかった」


 私は年の近い女の子と行動を共にしていた。その子が二日目に姿を消した不良男子を外の森に探しに行こうといったから、私はついていった。

 私は何と無く、不良男子の死体は見つからないと分かっていた。だって、不良男子の死体は食べられたのだから。

 いいや、違ったか。もうこの山奥の周辺から綺麗さっぱり消えてしまったのだったか。取り合えず、死体は見つからなかった。

 私は探すのは無駄だと分かっていた。それでも女の子が探そう探そうと私を誘うから、私はそれに付き従った。何で従ったのかは、自分でもよく分からない。何と無くその方が楽だった気がした。

 女の子は私を何かから意識を逸らしたかったように思う。出来るだけ色んな所へ行って、色んな方面に意識を向けさせようとしていた。それが見え見えだったけど、私は夕方になるまで付き合った。

 女の子はそれでも見つかりもしない不良男子を探そうとするから、私はついに止めた。


「もうご飯の時間にるから。ルールは守って帰らないといけないよ」


 女の子は暫く黙っていた。でも分かったと言ってくれたから、私たちはロッジへ帰った。

 不服そうに見えた気がする。いや、困惑だったか?それとも後ろめたさ?恐怖心?女の子のあの時の表情はなんだったのだろう。


「ずっと付き従っていたのに、変なところで自分の意思を主張していたね。分かっていて言及しない、従順なのに意思は貫く。本当、変な子だと思ったよ。まあ楽しませてもらったけど」


 結局、私たち村人は人狼の二人に負けた。あの女の子と、私を見下ろすこの男に。

 私が最後まで生き残った村人だった。私の腹を裂いたのは、あの女の子だった。


「彼女はもう山を降りたよ」


 そうか。


「僕もそろそろ降りるよ。…じゃあね」


 男が何かを振り上げる。それは私の顔面に真っ直ぐ落ちてきたそれは、私の頭と同じくらいの大きさのある岩だった。

 ゴツゴツした、荒い表面の岩。それは私の鼻先に当たり、バキッと小気味のいい音を響かせる。

 ぐちゅりと目玉が潰れる音がする。ごちょんと頭蓋骨が割れ、擂り潰された脳みそと混ざり合う感覚がする。潰れて消えた筈の鼻からつーんと、鼻血が出るような感覚があった気がした。

 顔が潰されたのに、私の意識は変わらず鮮明に残されたままだった。何かドロドロと熱い、クリーム状の何かが穴の空いた私の頭の中で蠢いている。

 視界は真っ暗だったが、不意に8bitの形式で文字がパソコンのキーボードで打ち込まれるように浮かび上がった。


『 人狼 の 勝ち です 』


『 貴方 は 敗北 しました 』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る