ソーシャルネットワーキングサービスのクソガキ

ダルい思い出

第1話

「起きろクソガキ、もう昼だぞ」

「正論くん、僕は毎度のように主人公が目覚める展開から物語が始まるのはどうかと思うんだ」


深い隈に半開きの瞼、社会不適合者なクソガキが今日1番目に発した言葉は、このような第三者目線的な否定の言葉だった。

未だに眠そうなクソガキから向かって左に見える真っ当な社会人の正論くんは、毎度の如くイライラとした口調で返信する。


「王道を扱うことになんで抵抗を持つんだお前は、面白い出だしもロクに思いつかねぇじゃねぇかよ」

「いやしかし正論くん、最近の流行りを取り入れることに意味があるとは思わないかい?例えばだな、トラックに跳ねられるんだよ」

「ライトに行くには重すぎるだろう内容が。まあお前の言うことも一理はあるかもしれねぇな」

「はは、僕は百里あると思うけどね」


否定的な締めくくりの末、クソガキはまた布団に潜った。スマホを片手に。

冒頭での会話からクソガキがすでに起床していたと結論付けていた正論くんがこの行動に疑問を持つが、クソガキは否定しか取り柄がない生き物なのでコンマ数秒の差を制し先に口を開いた。


「いやいや待ってくれよ正論くん。僕はなにも嘘をついた訳じゃないんだ」

「なんだお前先読みか。俺の疑問を俺の言葉無しに片付けるんじゃねぇ、気持ち悪いだけなんだぞそういうのは」

「そうだねここは漫画の世界でもないし、今の行為を説明する何かが必要かもしれないね。以心伝心とかどうかな?僕らは心が通じあってるんだ」

「気持ち悪いだけなんだぞそういうのは」

「ああそうだ話を戻さなきゃ、正論くん、僕は嘘をついたことがないんだよ」

「飛躍している、話がどこかへ飛んでいっているぞ」

「そうだなぁ、僕はタケコプターが好きなんだけど、どう思う?あれに文句をつけてるやつ、夢がないよね」

「話を戻せ、飛びすぎだ、タケコプターでも飛距離に限界はあるぞ」

「あはは、夢がないね」


クソガキはそう否定すると、布団から立ち上がり台所へ向かう。

真夏の真昼間、ジリジリと肌を焼く熱に汗を浮かべながら、冷蔵庫を開き、中に入っている食パンとバターを取りだした。


「今日はね、昨日言ってた通り蜂蜜トーストを作るんだ、お昼には食べたかったから徹夜したんだよ」

「また肌が荒れるぞ、徹夜は良くないだろ」

「いいんだよ、めんどくさいし、ダルいし、寝るのって」

「薬塗るのめんどくせぇんだろ?じゃあ生活習慣改めろよ」

「正論くん、持病に対する日常的な処置ってめんどくさいんだよ、持病を持ってない人と決定的に時間差が出来ちゃう。お国様は持病に対する処置をしている時間だけ時を止められる機械を発明するべきなんだ」

「下のやつを上のやつに合わせるタイプの思考なんだな、偉いことだ」

「いやー、出っ張ってるのを引っ込めるのはめんどくさいじゃない、それだけだよ」


珍しく謙虚に否定したクソガキは、食パンが焼けるまでの間、クーラーに当たりながら正論くんとお喋りをすることにした。

楽しくないけど時間は潰せる雑談を。暇なのはめんどくさいから。


「それにしても僕はつくづく思うんだよね、僕はとても親に似てるんだよ」

「ああそうだな、顔とか脳とかな」

「性格は似てないんだよ、僕は優しいし完璧人間だからね。ははは、顔も似てなきゃいいのに」

「無理だろ、遺伝子学は義務教育じゃ習ってねぇのか?」

「習うわけないじゃん、正論くんって思ってたより常識が欠けてるんだね」

「じゃあ無理だな、人間は習っていないことを理解するには脳が小さすぎる」

「あはは、一般人しか見ていない回答だね、伝記をもっと読みなよ」


クソガキが和やかに否定を繰り返していると、丁度パンが焼けた。

オーブンから取りだした食パンは綺麗に焼けており、いい匂いを振りまきながら皿へと移し替えられる。

リビングへ皿を運んだクソガキは、机に置いてある蜂蜜を溢れんばかりにかけ、ヒタヒタになったトーストにかぶりついた。


「美味しいや、これは暴力の味だよね。僕人類が嫌いだけど甘い物を開発してきたことに関しては評価してるんだ」

「何様なんだお前は、俺様なんだろうなお前は。というかお前、1枚で足りるのかよ食パン」

「足りないよ、足りるわけないじゃん。甘さは飽きやすいんだ、今日は冷蔵庫にハムもチーズも無かったから仕方なく1枚だけなんだよ」

「それなら仕方がないな、ハムとチーズがないのは塩味への冒涜だ」

「そうかもしれないね、多分違うけれども」


曖昧に否定しながらもパンを食べ終わった。

汚れた手を洗い、空になった皿を持って、再び台所へと帰ってくる。

蜂蜜でベタベタに汚れた皿を片付けながら正論くんが呟いた、


「チャイムが鳴ったぜ」


が喋る。


「ああ、帰ってきたのか、めんどくせぇな」

「喜ばなきゃダメだよ、帰ってきたんだから」

「喜びって飽きるんだよ、飽きねぇのは苦痛だけなんだ」

「はは、社会に出るのが怖くなるなぁ」

「あーあー、早くチャイムでねぇとな」

「とりあえず出なきゃ、また怒られちゃう」

「めんどくせぇ、俺の時間をなんで割かなきゃならんのだ」

「割かなきゃダメなんだよ」






prrrr






「時間だ、落ちろよクソ自己否定野郎」

「いいね、良くないけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソーシャルネットワーキングサービスのクソガキ ダルい思い出 @OVER_K

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る