31.大名古屋の未来

 二〇二七年十二月十九日、日曜日、午後二時。

 めでたくリニア中央新幹線の東京・名古屋間が開通した年の年末。


 透一は笹島の映画館で新作のアメコミ映画を見るために、直樹と二人で名古屋駅の新しいビルの前を歩いていた。


「この通りも、大分雰囲気が変わっとるな」

「ビルを通り過ぎて笹島に着くと、そんなに変わっとらんけどな」


 きょろきょろとあたりを見回す透一を、直樹が見て笑う。


 名鉄や近鉄などのビルが合体してできた新しい名古屋駅のビルは全長四〇〇メートル、高さ一八〇メートルにもなる巨大な白い壁のような巨大建築である。高さを誇るビルは数多いが、横の長さで最長を目指すビルは珍しい。


 開業して一年もたっていないこともあり、クリスマスムードのディスプレイが施されたショーウィンドウがずらりと並ぶ通りはめかしこんだ老若男女でいっぱいだった。


「二〇二七年にリニア開通ってめちゃめちゃ未来の話だと思っとったけど、案外すぐに来たよな」

「な。俺らも老けるはずだわ」


 コートの襟を詰めながら、直樹が白く息を吐きながら話す。


 透一もジャケットのポケットの中の使い捨てカイロを手で探りながら、頷いた。


 大名古屋万博のころは大学生だった透一と直樹も、今では四十を過ぎた若くはない中年のサラリーマンである。


 透一は地元三河の製造業の中小企業に就職し、海外に出張する機会もなく未だに日本から一歩も出たことがない人生を送っている。


 二〇〇五年から二〇二七年まで約二十二年。

 大不況に大震災、異常気象にパンデミック。

 この世の終わりのように暗いニュースが数多くあったが、透一はごく平凡な人生を送り続けているし、人類が滅亡する気配も今のところはない。


 歴史を紐解けば、どの国のどんな時代の歴史にも災難はつきものである。

 災難の原因に地球温暖化やグローバル化などといったそれらしい言葉を据えて現代を特別困難な時代にしようとする論者は絶えず現れるが、実際のところはいつだって人類は自分たちが一番不幸だと思って生きてきた。


(だけどそれでもまだ名古屋は、多分幸せな方なのだろうな)


 透一は道行く人々の清潔さや表情の明るさを見て思う。


 大名古屋では世界都市らしく常に大工事が行われ、古いものは新しいものへと建て替えられて置き換わる。


 大名古屋万博の会場だった場所はマスコットキャラクターの名前を冠した公園となり、さらには近年また新たに国民的アニメシリーズをモチーフとしたテーマパークが作られた。


 二〇一一年のアナログ放送の終了とともに電波塔ではなくなったテレビ塔は今では高級ホテルとなり、名古屋城の周辺ではさらなる観光開発が進んでいる。


 大名古屋の発展は、留まるところを知らないようだ。


 しかし透一はあの大名古屋万博で出会った彼女――サフィトゥリと、再び会えてはいない。


 おそらく名古屋は、未だに爆破される価値のない街なのだ。

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