30.論文執筆
(だいたい、こんな感じの内容かな)
二〇〇六年九月二十二日、金曜日、夜八時過ぎ。
大学四年生となり卒業論文の執筆に手をつけ始めた透一は、自室の勉強机でPCのキーボードを打ち、論文の構想を練っていた。
テーマはあの、大名古屋万博についてだ。
大名古屋万博の閉幕から約一年。
九月十六日から九月二十五日の名古屋ではちょうど、大名古屋万博閉幕一周年記念事業として数々のイベントが行われている。
透一も卒論の内容を膨らませるために、いくつかのイベントには出掛けていた。
今日もマスコットキャラクターの着ぐるみミュージカルを金山の市民会館で見て帰ってきたところだ。
膨大なグッズの売り上げを生み出した深緑と黄緑のマスコットキャラクターは、今や大名古屋万博の立派なレガシーである。
そのマスコットキャラクターによるミュージカルの上演となれば満員御礼で、市民会館にやって来た人びとは子供も大人も楽しんでいた。
(いやでも本当に、大名古屋万博って地元人気高かったよな)
卒論執筆にあたり透一は、地元の図書館に大名古屋万博のガイドブックやパンフレット、公式記録を借りに行った。
貸し出しの受付の女性に大名古屋万博の本を渡すと、女性は笑顔の貸し出し処理をしてこう言った。
『大名古屋万博楽しかったですよね。もう一年も前になるんですか』
見ず知らずの透一にもこう話しかけてくるのだ。やはり、大名古屋万博は愛されている。
そして透一も、万博があったからこそサフィトゥリに出会えたことに感謝していた。
サフィトゥリは結局テロせずに去るほどには、大名古屋万博に価値を見出してはいなかった。多分、彼女にとっては大名古屋万博はいわゆる愛知だけ万博だし、理念もそう興味を持っていなかった。
しかし、透一との出会いはせめてサフィトゥリにとっても悪くはないものだったと信じたい。
透一はそう思いながら、新聞記事をファイルに戻して再びPCでの作業に戻った。
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