第2話

 だが次のステージにいくにはさらなる助けが必要だった。ある日、畑仕事のあとで、俺は農場の夫婦に字を教えてくれるよう頼んだ。驚いたことに、亭主は字の読み書きがほとんどできなかった。ただし女房からアルファベットと簡単な文章の読み書きを教えてもらうことになった。

 地面に枝で書きながら、俺は英語を覚えた。算術(数学)に関しては、数字さえ分かれば俺のほうが詳しいほどだったので、逆に教えることもあった。

 ある日、俺は思いきって町に出てみた。腰には樫の木を削った木刀を差して。案の定大勢にじろじろ見られたが、腰の木刀のおかげでかなりの安心感はあった。まあ、やはり俺は侍なんだな。

 町を一通り見学(と言っても端から端まで20分もかからないが)したところで、俺は保安官に声をかけられた。もちろん、そんなことは予期していた。俺は自分の出自を話し、今仕事をしている農場の若夫婦の名前を教えた。読みは当たった。俺に町の人間と個人的なつながりがあったことで、保安官は俺を牢屋に入れるつもりはなくなった様子だった。それどころかいくつかの仕事を紹介してくれた。

 そのほとんどは危険、もしくは不衛生なもので白人達はやりたがらないものばかりだった。たとえば、鉄道の線路敷の仕事。1日働いて2ドルもらえる。クーリー(苦役人)と呼ばれる中国人達と一緒になって、炎天下のなか土を掘り、砂利を運び、線路を敷く。ただただその繰り返しだ。トンネルを掘る作業でもあった日には、ダイナマイト発破に巻き込まれて必ず死人が出るといった感じだ。そういう意味では鉱山の仕事はもっときつかった。何せいたるところでダイナマイト発破をしているのだ。1日働けば3ドルにはなったが、1日を無事に終えられるかは正直運任せだった。

 その点、酒場の痰壷掃除は安全だった。今は紙巻き煙草が主流らしいが、あの頃は噛み煙草だけだった。俺は噛んだことはないが、あれを噛むとニコチンたっぷりの唾が口に溜まる。まさか飲み込むこともできず、そこで痰壷の出番ってわけだ。半日かけて掃除して、1ドルはもらえた。酒場の食器洗いを手伝えばさらに50セント追加だったよ。その金で町で唯一のレストランで75セントのサンドイッチを買うのが、お決まりのコースだった。

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