第4話
それからも俺は町にとどまって働き続けた。若夫婦の農場を手伝い、酒場の痰壷を掃除した。町にやってきた賞金首を捕まえる手伝いもした。町の図書館が蔵書整理をした際に古本を買うこともできた。1年の半分は野宿だったが、それでも生活には困らなかった。時計やいざというときのための一張羅も持てたし。英語もかなり上達した。だけど何かが足りなかった。それが何なのかは分からなかった。もっと金がいるのか、日本人の仲間が欲しいのか、あるいは腰に日本刀を差すべきなのか。分からないまま俺は過ごしていた。
そしてついにある日、俺は自分で自分の人生に始末をつけることにした。このまま生きていても、足りないもののが何かは永遠に分からないだろう。それは辛い。騒ぎ立てて町の連中に迷惑をかける気もなかった。変わり者の日本人が死んで少しは驚くかもしれないが、すぐに忘れるさ。ただ切腹でかたをつける気はなかった。あれは後片付けが大変だ。おまけに痛いし。俺は首を吊るための綱を持って、町の外れにある小高い丘に向かった。そこには大きな樫の木が一本立っててな。俺はその木の脇に立って、しばらく風景を見ていた。
どれくらい経ったか。結局俺は綱を持って町に帰ることにした。
理由は分からない。アメリカ人の合理主義にあてられて自殺がバカらしくなったのか、夕焼けに照らされた草原が黄金の海のような美しさだったからなのか、はたまたそれ以外の理由なのか。今でも分からないでいる。
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