第26話 マブダチ

『へぇ~、木の実を集めててうっかりあのトカゲの尻尾踏んじゃったんだ、そりゃ災難だったな~だははは!』


『笑い事じゃない、おいら死にかけた』


 二人は今森の中を歩きながら談笑していた、魔物らしからぬ自己犠牲の精神を持った異常分子、異世界からやってきた最弱で強者な異常分子、双方共に異常分子故か何となく馬が合った


『悪い悪いもう笑わねぇよ、それよりもこれからどうすんだ?帰る場所あんのか?』


『おいらずっと一人、仲間みんなおいら嫌う、だから帰る場所無い』


 アストルからしたら何の事の無いただ気になったから聞いただけだったが、帰ってきた答えは予想外に重い物だった


『あーそっか、悪い嫌な事聞いたな』


『?なぜ謝る?お前何も悪いことしてない』


『…そっか…じゃあ気にしない事にしよう、帰る所が無いなら俺と一緒に行かないか?一人より二人いた方が楽だし楽しいだろ』


 周りと考え方が違う異常分子を嫌うのは生物界では当然の摂理、それは魔物でも当てはまるものだった、だが当の本人はまったく気にしておらず逆に謝罪してきたアストルに疑問符を浮かべていた


『おいら、一緒に行ってもいいのか?』


『あぁ、全然問題ないぜ、今日から俺たちは友達…いや、親友だ!』

(自分で言ってて死ぬ程恥ずかしいな…)


 自ら言い直した手前恥辱を表に出さず何とかポーカーフェイスで乗り切る、しかし内心では恥ずかしさの余り悶絶していた


『おいら…友達出来たの初めて…凄く嬉しい!!』


『うおっ』


 初めての理解者、初めての友達、そんな些細な事に感激し大喜びする、そしてその喜びの表現に思いっきりアストルに抱き着くのだった


『落ち着け落ち着け、まったく…危うくまた死ぬところだったぞ』


『ご、ごめん…』


『別にいい、それよりもこれから一緒にやっていくのに名前が無いんじゃ不便だ、俺で良ければ名前付けてやるけどどうする?』


『名前?それっていい物?』


『自分の呼び名の事だよ凄く良い物だ、俺たち魔物にとっては特にな』


『お前からの贈り物なら、何でも嬉しい』


 名前についていまいち理解していなかったのでもう一度分かり易く説明する、しかし上手く伝わってなかった様で名前を木の実か何かだと思っているようだった


『まったく、俺の名前はお前じゃねぇ【アストル】だ、これからよろしくな【オルト】』


 アガレスの所有していた古い文献に記されていたこの世界の平和と秩序の神【オルステットアルス】の名から少し貰い、心優しく他者の為に己を犠牲にできる気高い精神を持っていると言う理由で付けた名前だった


 そしてアストルがオルトと名付けた瞬間、全身から力が抜けるような感覚に陥る、アガレスから名付けられた時と真逆の状態になる、逆にオルトは全身にエネルギーが漲るような感覚になり自然と自分に付けられた名前を理解した


『オルト…おいらの名前…』


『そうだ、これからよろしくなオルト』


『…うん、よろしく…アストル』


 二人は改めて互いに手を取り握手をして打ち解ける、名前を付け、名付けられた二人の間には確固たる絆、魂の繋がりが出来たのだった

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