第25話 弱肉強食

 魔物の森、それは強力な魔物が多数住んでいる魔物達の楽園であった


 しかし、それは力もしくは知恵のある魔物に限った話だった、今日も一匹の哀れな魔物が捕食されようとしていた


 ハァ ハァ ハァ


(どうしてこんな事になったんだろう、オイラはただ木の実を集めていただけなのに…)


 バキバキバキッ


「GYAAaaaoooon!!!!!」


 森の中を二匹の魔物が走っていた、一方は追いかけ一方は追いかけられて、弱肉強食は世の常である


 必死に逃げる魔物は緑色の体で小さく、人間の子供程の背丈しかない、それを追いかける魔物は全身を固い鱗で覆われていて鋭い爪と牙が生えていた、一目見ればどちらが強者か一目瞭然間違いようのない差があった


 周りにいる他の魔物は皆見て見ぬふりをし助けようとしない、する必要が無い、何故なら死にたくないから、それは同族にも言えることで例え血を分けた兄弟だろうと関係ない、魔物とはそういう生態をしている


(!!!)


 逃げる者の前に自分と同じ緑の魔物が居た自分より小さなその魔物はまだ此方に気付いていない、その魔物を囮に使えば自分が生き残れるかもしれない、そう思いながらその魔物の横を通り過ぎようとした時、ふとその魔物が自分の代わりに食われるのを想像した


 嫌だった、吐き気が催す程嫌悪感で溢れた、何より自分より弱い物にそれを自分がする事に腹が立った、気が付けば魔物は自分の体を盾にするかの様に自分より弱い魔物の前に躍り出ていた


 もう一度言う、魔物の世界は弱肉強食、自分の命が一番で他者を気にする事は無い


 しかし異常分子が何処にでも存在する様に魔物の世界にも居ても可笑しくない、だがそんな異常分子が淘汰されるのも世の常、迫りくる強者の鬼の形相が目に焼き付く


(あぁ、オイラ死ぬんだな…オイラが食われてる間に逃げれっかな此のちび助は…)


 眼前に迫る大きな口を見ながら最後まで背に守る者の事を考える魔物、そんな優しい異常分子に奇跡が起こる


「魔物が自己犠牲の精神を見せるなんて驚いたな」


 死を覚悟したその瞬間に後ろから聞こえてくるその場に似つかわしくない程冷静で静かな声がした


 バクンッ


 声が聞こえたのと同時に大きな咀嚼音が聞こえてきた、そして目の前まで迫って来ていた強者の口は力なく項垂れ血が滴っていた


「よぉ、無事かい?」


 目の前で自分を食おうとした強者が無残に謎の巨大な口に食べられて行くのを唖然としながら眺めていると再び後ろから声がする


「ってそう言えば、普通の魔物にヒューマン言語じゃ伝わらんか、それじゃ『これなら分かるかい?』」


「!?」


 自分より弱い者と思っていた小さな緑の魔物は不敵に笑いながら自分達と同じ言語を話し始めたのだった

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