第21話 いたずら
アストルがアガレスと出会い師弟の関係になってから8年の月日が経った
そんな今二人が居るのはアガレスの寝室だった、ベットで寝ているのは勿論アガレス、8年前と違いその身から生気を殆ど感じない程瘦せ細り弱っていた
「師匠、飯だ…食えるか?」
アストルは逆に8年前と姿かたちは変わっていなかった、しかしと異なり自分の口で言葉を話していた
「おお、アストル…すまんな…」
ベットに横たわったまま頭だけを動かしアストルを見るアガレス、今にも途切れそうな程か細い声で申し訳なさそうに謝る
「謝る必要がどこにある、弟子が師に尽くすのは当然のことだからな、それに師匠には沢山の事を学ばせてもらったし、確実に成長できた…俺はそう思ってるし感謝してる」
「はっはっは…そう言って貰えて良かったわい…しかし…儂は悔しくて仕方ない…」
「…悔しい?」
「儂はまだ…お主に儂の全てを教え切っていない…なのに今更寿命に阻まれるとは…」
魔法を学び魔道を探究し賢者にまでなったアガレスにとって余りにも長い道のり、寿命も限界まで伸ばしていた、人間としては余りにも長い年月、もはや限界がきても仕方なかった
「アストル…この家には儂が生涯をかけて培ってきた知識が残してある…身勝手かもしれぬが、これからはそれを使って学んでいってくれ…」
「…あぁ、分かった、そうさせてもらうよ…」
「すまんが…儂が死んだ後は庭に植えてある木の下に埋めとくれ」
「…分かった…」
己の終わりを悟ったアガレスが最後の頼みをアストルにする、アストルは余計な事は何も言わずに了承した
「あぁ…口惜しい…これからという時に…願わくば…儂の最初にして最後の弟子アストルに魔導神の導きがあらんことを…」
「………」
最後にアストルへの祝福を願いながら静かに目を閉じる、そして安らかにまるで眠る様に息が止まった
「…師匠…」
「まだ死んでないよ?」
「うわ!?」
感傷に浸っていたアストルに向かってアガレスが突然目を開き、まるで悪戯が成功した悪ガキの様な顔で笑っていた
「し、死んだふり!?ふざけんなクソジジイ!!」
「はっはっは!愉快愉快!してやってりじゃ!アストル!儂が死んで寂しくなっても泣くなよ!笑え!はっはっは!」
「誰が泣くか!精々天国とかでそうやってふざけてろクソジジイ!」
「あぁ、そうしよう!…元気でな…」
最後にそう残し微笑みながら、慈愛に満ちた顔で息を引き取った、今度は幾ら待っても起きてこなかった
【賢者からの祈りが届きました、魔導神の祝福を受けました】
「!?」
アガレスの死に静かに黙祷を捧げていたアストルに聞きなれた声が聞こえる、それは賢者の最後に起きたささやかな奇跡だった
「…まったく、最後の最後まで…師匠らしいです…」
そう言ってアストルは上を見上げる、頬を濡らしながら…
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