第20話 飢餓

 バキッバリッグチャ


 オークを一口で食べた暴食の口がその場でグチャグチャと口を動かす、その度に周囲に咀嚼音が響き渡る


「やはり一瞬じゃな、そして2m程もあるオークを一口とは恐れ入ったわい」


【オークLv8の死亡を確認、経験値138を獲得】

【格上相手への勝利を確認、取得経験値を2倍にします】

【初めて暴食により生きた対象を捕食しました、暴食が活性化します】


 ドクンッ


 激しい脈動と同時に凄まじい空腹感に襲われる、とても立っていられない程に


「ど、どうしたのじゃ!?」


 突然倒れたアストルに驚いたアガレスは慌てて近づこうとする、しかしそれをアストルが朦朧とする意識の中力を振り絞り止める


(やめろ、ち、近づくな…食っちまう…)


 今のアストルにとって自分以外のものはすべて食い物にしか見えない、それが分かって何とか少しだけ残っていた理性でアガレスに忠告したのだ


(や、やばい…この感じ…死ぬ時のやつだ…)


 徐々に薄れていく意識の中で何度も味わった死の気配に気が付く、死にたくないと思いながらも心の隅ではまた直ぐにあの洞窟に戻るんだろうと冷静に考えている自分が居た


【過度な飢餓状態に耐えました、スキル忍耐が覚醒します】


 意識が途絶えるその瞬間に脳内に響く声、その声が聞こえるのと同時に絶えず襲い掛かって来ていた空腹感が突如消えた


(どうなってんだ?)


【既定値を満たす行動が行われました、スキル飢餓耐性(小)を習得します】

【スキル飢餓耐性(小)がスキル忍耐に統合されます】


 何が起こったのか全く分からないアストル、目の前に表示された通知画面を眺めて放心していた


「スキルの相乗効果で何とかなったみたいじゃの」


(相乗効果?)


「うむ、見たところ暴食は所有者を飢餓状態にする副次効果、つまりデメリットがあったみたいじゃの、忍耐は字の通りなら耐え忍ぶ力をもたらすスキルじゃろう、二つのスキルがうまく噛み合いそれによって飢餓状態から治ったのじゃろう」


 アガレスが状況を分析して一番可能性の高い答えをアストルに伝える、アガレスの鑑定スキルを使っても見通す事の出来ないのでそうする他ない、それ程【暴食】と【忍耐】が強力と言う事になる


(そうなのか、忍耐が無かったらと考えるとぞっとするな、死ぬ程の空腹…二度と味わいたくねぇ)


「確かに、耐え難い物じゃのう、腹を満たすのにもそれ相応の知識と力が必要じゃ、お主にはこれからとっぷり教えてやる」


(あぁ、よろしく頼む爺さん…いや、師匠)


 アストルは新たな決意を胸にまっすぐアガレスを見て師と仰ぐのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る