第11話 盟約の鎖

「話が逸れてしもうたの、説明の続きをせねばな、お主の疑問は主に3つじゃな?今お主を刺し貫いている鎖は何か、何故言葉がいきなり理解できるようになったのか、自分に一体なんの用があってこんな事をしたのかじゃな」


 アガレスと名乗る老人が此方に近づきながら声を掛けてくる、その声を聞いただけで相手に敵意が無い事が分かった、いや、分からされたと言ってもいい


(一体どうなってるんだ?何で俺は鎖で貫かれてるのに死なない?)


「ふむふむ、やはりしっかりとした知性を持っとるようだな、先ずはこの鎖について説明しよう、この鎖は盟約の鎖と言ってな、対象と強制的に盟約を結ぶ魔法なのじゃよ」


(要するに、勝手に何か約束させられたってことか?何を!?)


「慌てるでない、儂がお主と結んだ契約は従魔契約、魔物と自身を結び付ける物じゃ、これをすると知性ある魔物と意思疎通が出来るようになるから便利なんじゃ、意思疎通が主だった役割になっとるから普通の従魔契約よりも強制力は無く、ただただ話をするためだけの便利魔法じゃな」


 盟約だの契約だのと零治の知らぬ所で不穏な内容が聞こえ慌てる零治、しかしそんな零治の不安が分かったのか直様説明をするアガレス


 アガレスの説明を聞き落ち着いた零治、そして分からない事を何時までも考えたって仕方無い、と割り切り話を進める事にした


(それで?この鎖の事と意思疎通が出来てる事に対しての説明は今ので理解したよ、で、そんな事してまで俺と話たい事って何さ?)


 若干やさぐれた感じで問う零治、そんな零治のぶっきら棒な問いただしに苦笑いを浮かべるも、自分が悪い事を分かってるアガレスはそのまま素直に話を進めた


「長き時を生き、周囲から賢者だ、大魔道士だと持て囃されはしたが、結局最後は一人寂しく森の奥で隠居生活、今更人里に戻っても厄介事に巻き込まれるのが目に見える、そんな哀愁漂わせ湖の辺りで黄昏れていた儂の前に、お主という長い人生の中で出会った事の無い面白い存在に出会ったのだ、対話してみたいと思うのは至極当然ではないか?」


(いや、知らねぇよ)


 長ったらしく一人語りしたアガレスに対して零治は辛辣な一言で切り捨てる、結局アガレスの話をまとめると、ただ珍しい物を見つけて思わず手を出してしまったというだけの話だった


「酷いのぉ、もうちっと儂に興味を持ってもよいじゃろ?」


(年寄りの話は早い内からぶった切る方が良いと知ってるんでね、じゃないと永遠に終わらんし)


「実体験を基にした自己判断による行動か、それは転生前の話かの?」


(あぁ、俺の剣術の師匠だ、あんたと大体同じぐらいだと思う)


「なるほどのう、剣術の師匠…、年寄が長話をするのはそれだけ沢山の経験をして来たと言う自慢も含まれとるからじゃ、大目に見とくれ」


(別に好きにすればいいと思うよ、こっちが勝手に遮るだけだから、てか、何時までこの鎖は繋がったままなの?)


 零治は未だ自身の胸に刺さり繋がったままの鎖を見てアガレスに問う、一切痛みが無いからと放って置く事は出来ない


「確かに可視化させとくのも変じゃの」


 アガレスが言葉を発したと同時に零治の胸に刺さった鎖が見えなくなる、しかし依然としてアガレスの言葉が分かる事にすぐに気付く、そしてアガレスの可視化と言う言葉から察するに、鎖は見えないし触れられないが刺さったままなのだと自然と理解出来てしまう零治


「これで見えんくなったな、不思議そうな顔をしておるな、見えなくなった事ではなく未だ繋がってる事を自然と理解出来た事に対しての疑問だの」


(っ!?な、何で分かったんだ?まだはっきりと思考してなかったと思うが…)


「なに、ただの憶測じゃよ、お主は盟約の鎖を知らんかったからの、初めて盟約の鎖を使われた者は大抵そんな反応をする」


 盟約の鎖は従魔契約の他にも様々な使い道がある、手っ取り早く強制力のある契約を交わす時には必ずと言っていい程この世界では広く浸透している


 しかし盟約の鎖を使用できるのは一定レベルの魔術を扱えるものに限られるので、この世界の住人が全員出来る訳では無い


「所でお主に聞きたいんじゃが、この後何かをする予定はあるのか?」


(何だ?突然、別に予定なんて無いぞ、喉が乾いてて死にそうだったからここに来ただけだし、強いて言うなら食える物を探すくらいかな)


「そうか!そうか!ならば丁度いい、このまま儂の家に来て昼食でもどうじゃ?ご馳走するぞい?」


「ガ?(は?)」


 アガレスからのいきなりの提案に意表につかれた零治は間抜けな顔で間抜けな声を出して驚くのだった

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