第8話 白銀

(まぁ、自分が何者か知れただけでも良しとするか…)


 零治は自分が今相手した醜悪な小鬼と同じ存在だと知ってショックを受ける、しかしそれ以上深く考えるのは止めポジティブな思考に切り替えた


(さて、どうするか…このゴブリンが俺が待ってたゴブリンだとすると共存共栄は最早不可能、この先このガラクタしか無い洞窟に居るのは良くない)


 零治が今居る洞窟は瓦礫等は沢山あるがそれだけで食料や水はほぼ無かった、洞窟の隅の方にキノコが生えていたが一度食べて全身が痺れ死にかけた


 暫く悩む零治であったが答えは既に出ていた、零治はもう一度外の森に出ようと考えていた、初の戦闘での勝利で自分に自信が少し持てて、戦闘の余韻がまだ残っているのでテンションが高かったのもこの判断へ至った理由の一つ


(こうなったらあの野郎にリベンジするか!何時までも暗くじめついた場所で燻っていてもいいこと無いもんな!)


 心の準備が出来た零治は早速行動に移る、先ず初めに新しい相棒としてゴブリンが持ってきた棍棒を確認する、零治が最初に持っていた木の棒と違い持ちて部分は細くなっているが先に行くほど太くなっている如何にもな棍棒だった、零治には武器の良し悪しは分からないが前の木の棒よりも丈夫なのは分かった


 続けて更に瓦礫の山を漁り手頃な木の板や紐などを探す、そしてそれらを上手く繋ぎ合わせ簡易的な防具を作った、動きを阻害されない様最小限ではあるがこれで随分と生存率が変わると零治は考えていた


(武器よし!防具よし!準備よし!さぁ、出発だ!)


 零治は逸る心を何とか抑え、周囲の警戒を行いながら進んでいく、そしてもう一度陽の光をその身に受ける、爽やかな風が吹き抜け零治の頬を撫でる、久しぶりに感じる外の空気に浸りたくなる気持ちをなんと持ちこたえ、更に進むべく足を踏み出す


(今の所何事もなく進めてるな)


 何時でも対処出来るように警戒して進んでいる零治だが勿論目的がある、先ず水の確保、零治はここに来て一度も水を飲んでいない、まだ平気だがこれ以上飲まずに居るのは良くないと思ってのことだ


 次に食料だ、肉は流石に火も道具も無いのに用意しても仕方がない、なので今回は木の実や野草を探し採取すると決めていた


(お、早速木の実らしき物を発見、見た目は見た事の無い物だが平気そうだな、お!こっちは知ってるヨモギだ、調理出来ないから生で食べるようだが仕方無い)


 何故零治が見た事も無い木の実を食べられると判断したのか、それはその木の実が地面に落ちており何者かに食べられた跡があったからだ、野草に関しては元々野草の知識なんかを祖父に叩き込まれていたからだ


 その後も零治は野草や食べられそうな木の実を採取しながら進む、第一目的である水の確保がまだだからだ、そして水を探す零治の前に1つの影が現れる


(ん?何だか暗くなったような…) 


 影が零治に重なると当然零治の周りは暗くなる、その事に気が付いた零治はふと顔を上げる、するとそこには一頭の狼が居た


 白銀の毛が風に靡き煌めく、知性を感じさせる双眼は左右で色が異なっていた、方や蒼く透き通ったまるで大空の様なスカイブルー色、方や草花や風などの自然を彷彿とさせるエメラルドグリーン、圧倒的存在感を放つ謎の狼、此方を襲う気は無いのかその場に座ったまま微動だにしない


 零治はこの状況に激しく困惑していた、突然音もなく限界集中していた零治の直ぐ側に現れたのだ無理もない、更に言うべきは相手の大きさ、目の錯覚や自分の頭がイカれていないのなら白銀の狼は隣に並び立つ木々と同じ大きさだ約3、4m程だと思われる


(何なんだ、一体、さっきまでそこに何も居なかったろ、草木が揺れる音どころか移動した風すら感じなかった、あんなデカいのに…)


『小さき者よ、我の言葉は分かるか?』


 零治か白銀の狼を前にどうこの場を切り抜けるか考えていると突然頭に声が響く、何時もの声とは全く別の声、美しく透き通った声だった


(な、何だ?一体何なんだ?)


『落ち着け小さき者よ、別に我はお前をどうこうしようとは思っておらん、それよりも先の問いに答えよ、お前は我の言葉は分かるのか?』


 色々ありすぎて混乱の最中にある零治はその場に固まり動けずに居た、そんな零治を見て白銀の狼は優しく零治を諭して再度質問してくる


「ガ、ガグギャラガ…(わ、分かります…)」


 一周回って零治は冷静さを取り戻し何とか会話をするように声を発する、何気にこれが初めて自分の意志で他者に言葉を伝えた瞬間だった


『ふむ、どうやら分かる様だな、これは珍しい、本来知能が低い筈のゴブリンが我の言葉を理解するか、それにその身なり、まるで人種を真似た様だ、しかしその実しっかりと機能性を考えられている、お前は実に興味深いな』


 狼は1人物思いに耽る、零治の普通とは違う空気に興味津々のようだ、そして零治はそんな狼が怖くて動けずに居た


「グ、グギャグオ?(あ、あの、一体何なんでしょうか)」


『あぁ、すまない、中々興味深く考え込んでしまった、何、別にこれといった理由など無い、少々奇妙な気配を感じた為見に来ただけだ』


 零治の決死の声掛けにより我に返った狼は事も無げにここに来た理由を述べた、それに対して零治は心底安堵する、自分が何かしてしまったのかとハラハラしていたから


「ギャオギャ?グ、グギャルギャギャ?(奇妙な気配?お、私にその様な者が出ているので?)」


 危険が無いと分かり少し落ち着いた零治は今度は自分から質問を投げ掛ける


『そう畏まらんでも良い、普段のようにせよ、それと奇妙な気配と言ったのはお前の魔力だ、お前の魔力は他とは違い何か変だ、それを奇妙と思いここに来たのだ』


「グギャル?ギャルグギャギャ?(魔力?なんですかそれ?)」


 零治はこの世界の事をまた一つ理解する事になる

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