第7話 会敵

(まただ…また…俺は死んだ…確実に…)


 零治は先程起きた事にショックが隠せない様子だった、それもそのはずで、零治は2日掛けやっとこの暗くじめついた洞窟から外に出られた、しかしそんな外にはあんな怪物が居た


 前門の虎、後門の狼とはよく言ったものだ、そこで零治はより一層深く考え込む、己の持てる知識を総動員して今後どのようにするか


(一度ここで待つのも手か…ゴブリンとやらが俺の敵とは限らんし、俺が殺されたのも事故の様な物だし、最初の食中毒も物が悪くなっているのに気付かなかっただけかも)


 希望的観測、それは零治も重々承知の事、しかしこの状況で試さずには居られないとそう零治は思ったのだ


 それからいつも通り過ごし体が大きくなるのを待った、待っている間も自分がどうするべきかを考え続ける、しかし何分零治は元高校2年生、しかも勉強以外は鍛錬に明け暮れていた変わり者、そんな零治にこんな奇怪な事態の解決法など一切思い付くわけがなかった


(う~ん、こんなに悩むのは久しぶりな感じがする、前まではこういう時、素振りをして雑念を払っていたな、今回はそうもいかないから、こういう時はどうすべきか分かるように事前にもっと対策法とか身に着けておくべきだったな)


 かつての自分を思い返し、もう少し物事を真剣に考えるもしくは取り組めば良かったと思ってしまう


 そうこう考えて居ると成長の時がやってくる、最初と比べると格段に軽くなった痛みを耐え、体が大きくなるのを待つ、そして暫くすると痛みが無くなり完全に成長を終える


(さ~て、これからどうするか、ただ待つのは味気無いし、やっぱ素振りか!)


 零治はそんな事を考えながら瓦礫の山から手頃な木の棒を拾う、そして正眼に構え、振り上げ、振り下ろす、この単純な行動を繰り返し行う、自身の体が動かなくなるまで唯ひたすらに


(97…98…99………100!!はぁはぁ…やべぇこれはやべぇよ…たった4、500グラム前後の木の棒をたったの百回素振りするだけで3回も止まってしまった…ありえねぇ程体力がなくなってる…)


 零治はこの数時間唯ひたすらに木の棒を振っていた、以前の零治ならば軽い木の棒を百回素振りするのなんて、ものの数分で出来ていた事、それが出来なくなってしまったショックは計り知れない


(ふ、ふふふ、フフフハハハハ!いいだろう…出来なくなったのならまた出来るようになるまで鍛えればいい!必ず以前の俺を取り戻す!!)


 零治は目に涙を溜め不敵に笑う、そして手に持つ木の棒を力一杯握り締める、余りのショックでおかしなテンションになってしまっている


 それから零治は更に素振りを続けた、木の棒を握る手にマメができ潰れるまで、酸欠になって倒れるまで、腕がピクリとも動かなくなるまで、我武者羅にしかし正確に素振りを繰り返す


 トータルで約千回の素振りを行っていると最早聞き慣れた声が頭に響く、その出来事に驚いた零治は素振りを一旦止めて聞こえてくる声に耳を澄ます


【既定値を満たす行動が行われました、スキル素振りを習得します】

【既定値を満たす行動が行われました、スキル不屈を習得します】

【既定値を満たす行動が行われました、スキル初級剣術が中級剣術にクラスアップします】

【既定値を満たす行動が行われました、スキル初級棍術が中級棍術にクラスアップします】


 聞こえてきた声は何時もと同じものだった、しかし聞かされた内容は何時もと異なっている、普段の声は零治が死んだ後に聞こえてくる、しかし今回は零治が生きている時に聞こえた、更に言っている内容もいつもと違った


(どうなってんだ?まさか知らない内に死んだか!?って、そんな訳無いわな、だって俺まだ大きいままだし、素振りで溜まった疲労がビンビン感じるしなぁ、どういう事だ?)


 パキッ


 零治があれこれ考え込んでいると不意に洞窟内に音が鳴る、零治が木の棒を探す時にその辺に転がった木の枝を何者かが踏んだ音だった


(ん?もしかして帰ってきたか?)


 零治は音の主が自分を何度も殺した元凶である〔ゴブリンLv3〕が洞窟に帰ってきたと思い振り返る、するとそこには血走った目で乱雑な牙を覗かせ此方に向かって手に持つ棍棒を振り上げている醜悪な生き物が居た


(あっぶね!)


 零治は何とか振り下ろされる棍棒を避けた、先程まで零治の頭があった場所を過ぎ棍棒は地面に叩きつけられる、パコンと木を地面に叩きつける音が洞窟内に響く


(何なんだこの気持ち悪い生き物は!も、もしかしてコイツがあの〔ゴブリンLv3〕って奴か?こんな見た目だったのか!)


 零治は目の前にいる醜悪な存在を凝視する、頭には毛が生えておらず代わりに小さなコブがある、目は黄土色をしていて妙に大きい、鼻は太く大きく長い魔女の様な鼻、口は先程も言った通り牙が乱雑に並んでいて歯並びが凄く悪い、そして常によだれを垂らしていて汚い


 体型はずんぐりしていて下っ腹が出ている足は短く腕が長い、そして何よりその身には一切の衣服が存在していなかった、要するに裸だった、必要最低限のモラルすら持たない奇っ怪な生物それが零治の出した答えだった


「グルギャァァ!ゴギャギャギャ!!」


「グルルルル」


(コイツ、完全に俺を殺そうとしてるな、殺気がひしひし伝わる)


〔ゴブリンLv3〕と思われる奴は零治に、向かって殺気剥き出しに睨み何やら叫んできた、零治も負けじと睨みつけ唸る、そして拮抗状態になり互いに出方を伺う


「グルルギャオー!!」


 最初に沈黙に耐えきれずに襲い掛かって来たのは相手の方だった、手に持つ棍棒を大きく振りかぶって突撃してくる、それは余りにも拙く一切の技が感じられなかった、ただ我武者羅に力の限りを振り絞るような、そんな攻撃だった


(力は確かに相手の方が上だな、だがこの程度なら問題はない)


 零治は自身に振り下ろされてくる棍棒を、自分の持つ木の方で流す、受ければこちらの唯一の武器が失われると考えてしっかりと安全を確保しながらの流し


 そんな軽い流しに対して相手の反応は予想以上だった、体制を崩すだけに収まらずそのまま地面に転がった、更に自分の武器である棍棒を取りこぼす始末


 これ以上ない絶好のシチュエーション、相手の頭が自分の腰辺りにあり距離もしっかりと間合いの中、完璧にお膳立てされたこの状況を零治はしっかりと焦らずにこなす


 振り上げられた木の棒がヒュンと風切り音を出しながら振り下ろされる、そして見事相手の脳天にクリーンヒットする、バキンッと言う音と共に木の棒が折れるのをスローモーションの様に零治は眺めていた


(……やっべ!折れた!)


 零治は焦りながらも冷静にバックステップで飛び退く、そして今し方圧し折れてしまった相棒(木の棒)を見つめる、よくよく考えてみれば当然の事だ、ただの木の棒で生き物を全力でぶっ叩くのだ、こんな洞窟の中の瓦礫に埋もれていた棒が耐えられるはずがない


(と、兎に角、武器になりそうな物を探さなくては…ん?)


 折れた物は仕方ないと思考を切り替え、次の武器になりそうな物を探す零治、しかしそこで相手を見てみるとビクビク痙攣している姿が見えた


 頭部を見てみると零治が殴った箇所が陥没しており、只事でない様子が見受けられた、そしてそのまま暫く痙攣を続ける相手を眺めていると、次第に痙攣が収まり力が抜けてゆく


【ゴブリンLv4の死亡を確認、経験値5を獲得】

【初の戦闘を確認、取得経験値を2倍にします】

【格上相手への勝利を確認、取得経験値を2倍にします】

【初のレベルアップを確認、BP(ボーナスポイント)を5P獲得します】

【同系列の殺害を確認、称号〔同族殺し〕を獲ました】


 ゴブリンがピクリとも動かなくなってから少ししてから、また頭の中に声が響く、その内容は零治にとってよく分らない事だった、ただ一点を除いて


(俺って、この醜い怪物と同族……こんなのに生まれ変わってたのかぁ…………)

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