第6話 角兎

(んー、パンツは無いか…仕方ないこの布を腰に巻いて代用するか)


 零治は物が乱雑に積み上げられた場所を探すがお目当ての下着は出てこなかった、そこで仕方なく手頃な布を拾い腰に巻く


(ん?そう言えばあのハイハイ事件で俺か死んだのってここにぶつかって物が落っこってきたからか)


 謎だった自分の死の真相が今分かった、うず高く積み上げられた瓦礫の山、そこにぶつかり上の物が落ちて零治の頭に当たった、それが6度目の死の真相


(何て言うか、俺運悪すぎじゃね?)


 零治は自分の不運に悲しみを通り越して呆れた


(さて、それじゃこの後どうするか…)


 ある程度文化人としての最低限のモラルを守る事が出来たので、次にどう行動するか考える


(まぁ、ここに居るっていうのは無しかな)


 零治からするとここに来てもう2、3日ずっと監禁されていたのと同義だった、そんな場所に居続けようと考えるはずがなかった


(かと言って無闇にここから出て行くのは中々勇気いるよな)


 普通人というのは未知を恐れ自分から前に出たがらない、一握りの人間が未知に挑戦する事の出来る勇気があるのだ


(丸腰で行くのはやはり危険か、なら武器になりそうな物を探すか)


 再び瓦礫の山を物色して手頃な武器になりそうな物を探す、そして見つけたのは木の棒、所謂棍棒という物だ


(よし、これでいいな、あとは武器にはならなそうだし、贅沢は禁物だな)


 棍棒を手に持ち何度か素振りする、以前の体ならば息をするように自然に出来ていたが、今はちょっと振っただけですぐに限界が来る


(チッ、この程度で腕が悲鳴上げるなんて…)


 零治は唇を嚙み悔しさを紛らわす、自分が積み上げてきた努力が全て無に帰そうと、もう一度努力すればいいだけの話と自分に言い聞かせる


(それより今はここから出るのが先決か、じっとしてても意味がないしな、それにいつアイツが来るか分からんし)


 零治の言うアイツとは何度も自分に死を与えた〔ゴブリンLv3〕の事だ、零治の中では自分より大きく力の強い存在としてイメージが根付いていた、よって警戒するのは必然であった


(この先以外の道は無さそうだな)


 瓦礫の山のすぐ近く、この広間唯一の出入り口である横穴、微かに奥から風が吹き込んできている、明かりも薄っすらと感じるので先があり、それが外に繋がっているのは分かった


(よし、行くか…)


 横穴から頭を出し危険の確認をする、横穴は出てすぐに曲がっていた、そこから更に頭を出し先を確認すると陽の光が差し込む出口らしき物を確認出来た


(あそこが出口か?以外に短かったな)


 零治は冷静に慎重に歩みを進めた、ここでハイハイ事件の様に何も考えず飛び出せばどうなるか、零治はそれをよく分かっていた


(くっ…眩し……、ここは…森?)


 零治が暗い洞窟から明るい外へ出て暫く目を慣らし、しっかりと確認するとそこに広がっていたのは視界一杯の木々、ここが森の中だというのは一目瞭然だった


(森の中、当たり前だがここが何処か分からんな…ん?)


 辺りを見渡し自分の記憶と照らし合わせる、しかし当然の事に全く知らない場所、そんな森の中に立つ零治、そんな零治の直ぐ近くにある茂みがガサガサ動き出す


 兎?「フンフン、フンフン」


(兎?それにしては何だかデカいような…てか、角あるし…)


 茂みから飛び出てきたのは兎だった、しかしその外見は零治の知るそれとは明らかに違った、先ず注目すべきはその大きさ、平均的な兎の大きさは30〜50㎝程、しかし目の前の兎は1mはゆうに超えていた


 そして更に驚くべきことは、この兎の額に太く長い鋭利な角が生えている事、それだけでその兎が零治の知る物とは明らかに違うという事をありありと示していた


 角兎は零治に気が付いておらず明後日の方向を向き鼻をひくつかせている、明らかにヤバいと悟った零治は視線はそのまま角兎へ向けながら慎重に動く、抜き足差し足と角兎が向いている方とは別の茂みに向かう


 ベキッ


 枯れた木の枝が折れる嫌な音が鳴り響く、勿論その音の発生源は零治である、角兎の動向を探りながら動いたのが不味かった、しっかりと足元が確認出来ていなかったが為の不注意


 恐る恐る角兎の方へと視線を向ける零治、そしてその目に飛び込んできたのは爛々と光る2つの真っ赤な瞳、ガッツリと零治をその両の眼で見据えていた


 そして兎とは思えない程獰猛な顔になる、顔に皺を作り猛獣の如き表情で


(兎が滅茶苦茶凶暴そうな歯をしてらっしゃるのだが…これ…十中八九ヤバい奴だよな?)


 角兎は顔だけでなく体も零治に向ける、そして何やら縮こまり身を屈める、しかし怯えているのとは違く此方をしっかり見据えながら自らの角の鋒を向けていた


(やばい!!!)


 零治は角兎の考えが分かり直様対処しようと動く、しかしそんな零治を嘲笑うかのように角兎はその猛威を振るう、ドンッという音と共に物凄いスピードで此方に突っ込んでくる角兎、避ける事は最早叶わない、そこで咄嗟に手に持つ棍棒を体の前に突き出し所謂バントの形を作る


 バキッ!  ドッ!


 棍棒は角兎の角にしっかりと合っていた、しかし止める事は出来ずにバキバキに折られる、だが棍棒を犠牲にした事が功を奏して角の軌道がズレた、しかし完全に逸らす事は出来ずに零治の土手っ腹に深く突き刺さった


 零治「グフッグぐぅ」


 角兎「フンッ!」


 余りの出来事に動けずにいた零治を角兎が蹴り飛ばす事で自らの角を抜く、それにより角で止まっていた血が一気に吹き出す、零治は余りの痛さと蹴りの衝撃で尻餅をついた状態で腹に手をやり必死に痛みを我慢する


 そして角兎を見ると先程と同様に身を屈め此方に狙いを済ましていた、既に重症の零治に対して全く一切の手加減が無く無慈悲に死を与えようとする角兎


 既に死に体の零治は何も出来る事が無くただこの目の前の確定した死に笑う事しか出来なかった、そして角兎の角が眼前に迫り零治の意識は完全に無くなった


【対象の死を確認……ロードを開始します…】

【対象の死因“他殺”と断定〔ホーンラビットLv14〕による刺殺を確認…】

【対象の行動パターンを分析…行動に沿うスキルを獲得します】

【一定以上の物色を確認、スキル物あさりを獲得します】

【一定以上の熟練度を確認、スキル初級剣術を獲得します】

【一定以上の熟練度を確認、スキル初級棍術を獲得します】

【規定値を大幅に超えた刺突によるダメージを確認、スキル刺突耐性(小)を獲得します】

【セーブデータを確認……セーブデータがありません…初期地点をロードします……】


 そして再び零治は目覚める、薄暗い洞窟の中で…

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