第4話 慣れと油断

 あれから零治は2度死んだ、死因の1つが窒息死、理由はゴブリン(仮)に食べさせられる物が喉に詰まったから、これによって得られたスキルは【喉越し】と言う物だった


【喉越し】物を飲み込むと言う行動に補正がかかる、大抵の物ならば容易く飲み込めるようになる、ただし硬い物や鋭利な物を飲むと普通に傷つく


 そして2つ目の死因はくしゃみによるショック死であった、これにより得られたスキルは【衝撃耐性(小)】と言う物だった



 零治は酷く困惑していた、複数回の死ぬ体験、摩訶不思議なスキルと言う存在、意味不明な状況、零治の思考は混迷を極めていた


(本当に一体どうなってんだ…訳がわからねぇ、トラックに轢かれて、よく分からねぇ所に来ていて、何度も死んで、俺は一体どうしちまったんだ…)


 それでもどうする事も出来ない、体も思うように動かず、声もしっかりでない、そして人ではない何かが自分を何度も殺している、既に零治の心は限界に近かった、だが…


(……何時までもくよくよしてられねぇよな…今は待つ事しか出来ないが、そのうち打開策を見つけて必ずこの訳のわからない状況から抜け出してやる!)


 零治は決意を新たに心を立て直す、すると丁度またあの時間がやってくる


「グギャグ!グギャ!」


「…………」


 5度に渡る死を経験した零治は先程心を持ち直した、なので今までのように慌てる事無く静かに待つ


 少し経つとゴブリンが零治を抱き抱える、零治の脳内にまた死の情景が浮かぶが特に反応せずにやり過ごす、そのまま例の毒物を食べさせられる、口に入れられた毒物は滑らかに喉を通り胃の中に入る


「グギャ」


 零治が毒物をちゃんと食べた事を確認してからゴブリンは零治を地面に置いた


(よし、記録更新だな)


 零治は心の中でガッツポーズをする、今迄計5回あの時点で死んでいた、そんな零治がやっとその先に進めたのだ


(それで…一体これからどうすればいいんだ?)


 最初の関門と思われる箇所は越えた、しかし当然なことに此処から先の事は未知の領域、何を目指し何をすればいいのか分からなかった


(と、取り敢えず待つとするか…)


 何をすればいいのか分からない時、大多数の人はその場で待つと言う行動を取るのではないだろうか、人とは臆病な生き物だ、何が起こるかわからない状況で何かをする、それは決して簡単な事ではない、極一部の人が出来る勇気ある行動なのだ


 それからしばらく経ち零治は自身の変化に気付く、目がぼんやり見えてきたのだ、何も見えない真っ暗な世界からほんのりと揺らめく光を感じる事が出来るようになった


(おぉ、目がだんだん見えるように…でも何だか変だな、見えるようになるのはいいとして、ここどこだ!?)


 薄っすらと見えるようになり分かった…いや、薄々は感じていた違和感が明確に分かったのだ


(やっぱここ洞窟じゃねぇか!)


 零治は心の中で絶叫した、もう既にここが病院や自宅ではないのは重々承知だった、しかしそれでも何かしらの建物の中かと淡い期待を抱いていた零治、今、そんな期待を打ち消される


(ど、どうなってんだ…トラックに轢かれて死んで、そしてここに来て何回もまた死んで、何が何やら…)


零治の頭の中は混乱で一杯であった、しかし何もすることのできない今、考えて思考を整理する時間だけは沢山あった、零治は冷静に思考の整理整頓をしていく


(俺は死んだ、それは間違いない、あんな生々しい出来事が偽物の訳が無い、しかしこの状況が分からない、天国では絶対ないとして、地獄とも違うような、死んだ者の行末は天国か地獄の他にはもう1つしか思い当たらない…【輪廻転生】かな)


零治は冷静に考え、ある1つの考えに辿り着く、それは【輪廻転生】、これ自体は日本人なら誰でも知っている知識、しかしそれは飽くまで物の考え方の1つとして知られているのであって本当にあるかは分からなかった


(転生…したのか?もしそうなのなら、何故に洞窟?)


零治の頭では転生をしたらまた赤子として現世に産み落とされると考えていた、しかしそれは人の赤子として、しかし現在自分は一体何に転生したのか皆目見当もつかなかった


それからしばらく時間も忘れてずっと考えていた、しかし一般常識以外剣道の事しか知らない零治にはこれより先の事が思いつかなかった


そして意識が覚めてから約5時間という時が過ぎた、すると目は完全に見えるようになり、体も少しずつ動かせるようになった


(よっしゃ!何だか段々体が動くようになったぞ!)


零治はしきりに自分の体を確認して動かせるようになってから忙しなく動かしていた、そのかいあってか徐々に動きがスムーズになる


(この調子なら立って歩けるようになるのも時間の問題だな)


動かせない体が動くようになりテンションの上がった零治は、ムクリと起き上がりそのまま四つん這いの形になる、そこから先はまだ無理だと理解した零治だが現状出来る動きをしてみたくなりハイハイを始める


(お、おぉ、ハイハイはちょっとみっともないけど動ける!体が動くってこんなに素晴らしいことだったのか!)


禁止されたものが解禁されるとテンションが上がる、それは万人に共通する事の1つだと零治は思った、しかし零治はこの時冷静さを欠いていた、テンションが上がりすぎて一心不乱にハイハイをすることにより動き回り、そして…何かにぶつかる


(いてっ!あ、危ねえ危ねえ、俺としたことが我を忘れてハイハイハイになっちまったぜ)


物にぶつかった衝撃で我に返る零治、驚いた事で咄嗟に痛いと言ったが、実際には痛みはなかった、そのため零治は油断していた、自分がぶつかった場所が何なのか気にもせず


【対象の死を確認……ロードを開始します…】

【対象の死因“打撲”と断定…】

【対象の行動パターンを分析…行動に沿うスキルを獲得します】

【一定以上の思考を確認、スキル思考加速(中)にクラスアップします】

【一定以上の視覚の動作を確認、スキル視覚強化(小)を獲得します】

【一定以上の運動を確認、スキル身体操作(小)を獲得します】

【打撃による死を確認、スキル打撃耐性(小)を獲得します】

【セーブデータを確認……セーブデータがありません…初期地点をロードします……】


(え?)


気付かない内に零治は6度目の死を迎えたのであった

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