第28話

「不老不死の魔女が実在するのなら、その人はとても寂しい思いをしていると思うよ? 好きな人も大切な友達も、みんな自分より先に死んじゃうんだから」



あたしが真っ直ぐに美鈴さんを見てそう言うと、美鈴さんは視線を外して後ずさりをした。



「寂しい人を更に追い詰めて傷つけるのは違うよね? あたしなら、その魔女と友達になりたいと思う」



「そうだよね。あたしもそう思うよ」



綾があたしの意見に賛同してうなづいてくれた。



「魔女だとしても、友達は友達だもんね」



真夏が言う。



それだけじゃない他のクラスメートたちも同じように口をそろえて同意してくれる。



「ま、魔女と友達とか意味わかんないし」



さすがの美鈴さんも大人数を敵には回せないようで、雅子さんと2人でそそくさと教室を出て行ってしまった。



それを見て、あたしは真夏と綾と目を見交わせた。



そして3人同時にプッと噴出して笑う。



「今の千奈すっごくかっこよかった!」



「あははっ! でもめっちゃ緊張したよ! 美鈴さんたちを怒らせたら怖そうだもん」



「千奈なら大丈夫だよ。だって、あたしたちがいるんだもん」



「うん。そうだね。本当にありがとう、2人とも。でも、できれば美鈴さんや雅子さんとも仲良くなりたい。だって、たった1度きりの中学2年生なんだもん」



誰とも争いたくない。



全員と仲良くできないことくらいわかっていたけれど、無駄な喧嘩はしたくなかった。



「改めて、お帰り、千奈」



「お帰りなさい、千奈」



2人に言われてまた泣きそうになってしまう。



今年はやけに涙もろい1年にもなりそうだ。



「ただいまっ!」



あたしは泣き笑いの顔で元気いっぱいに答えたのだった。


☆☆☆


それからの毎日は、あたしが望んでいた日常だった。



ただ、もうこの毎日を暇つぶしだとは思わない



かけがえのない日々だと思って過ごすようになっていた。



そして、サッカーの試合の当日を迎えていた。



「今日も観客が多いなぁ」



河川敷の石段でそう言ったのは美鈴さんだった。



「いつものことだよ。だって洋人君がかっこいいんだから」



答えたのは隣に座る雅子さん。



そして、あたしは……「あ、あの」そんな2人におずおずと声をかけた。



同時に振り向く2人は学校ではしていない化粧をしていて、とてもかわいらしい。



あたしはというと、やっぱりジーンズにTシャツ姿で、化粧っ気もないままだ。



「ちょっと千奈、まぁたそんな格好で応援にきたの?」



「せめて化粧くらいしなよ」



2人の呆れた声にあたしは慌てて「自転車だから」と、説明する。



「そんなの関係ないから! ほら、こっちにおいで!」



突然美鈴さんに手を引かれて、あたしは強引に歩かされた。



「ど、どこに行くの?」



「トイレ! 試合開始までまだ時間があるでしょ。あたしたちがどうにかしてあげるから!」



雅子さんの言葉にあたしは首をかしげるばかりだ。



2人に強引にトイレに連れてこられたあたしは鏡の前に立っていた。



美鈴さんがバッグの中から化粧ポーチを取り出して、あたしの前髪をヘアピンで止める。



その間に雅子さんが化粧下地を取り出していた。



「まずはこれを塗って」



「う、うん」



あたしは2人に言われるがままに化粧を始める。



イジメられるわけではなさそうなので、ひとまずはやってみることにした。



今日の試合見学に来るのも、2人が誘ってくれたのだ。



「で、最後にグロスをつけるの。これ、色つきだからほんと可愛いから」



雅子さんに手渡されたグロスを塗ると、唇がうるうると輝いきはじめた。



「どう?」



美鈴さんに聞かれてあたしは鏡の中の自分をまじまじと見つめた。



そこにいたのはいつもの自分じゃなかった。



まるで見慣れない他人みたいに見える。



「可愛い」



思わず呟き、ハッと2人を見る。



2人は満足そうに何度もうなづいた。



2人から試合観戦に誘われたことだってびっくりしたのに、どうしてここまでしてくれるんだろう。



戸惑っていると、美鈴さんが仏頂面のまま「これで、チャラにしてくれる?」と、聞いてきた。



「え?」



首をかしげて聞き返すと「魔女とか言ったこと、悪かったと思ってるから」と、雅子さんが言った。



「あ……」



「謝るとか苦手だしさ。でももうあんなことは言わないし、仲良くなれたいいなって思ってるし」



美鈴さんはだんだんと声を小さくしていき、最後には頬がほんのりと染まっていた。



あたしはそんな美鈴さんを見て自然と笑顔になっていた。



「もちろんだよ! あたしも2人と仲良くなりたい!」



「ほ、本当に?」



「本当だよ!」



自分たちが悪いことをしたという自覚がある2人は、少し疑うような視線をあたしへ向ける。



「それに化粧だってしてくれたしね」



そう言うと2人はようやく納得したように笑顔になった。



「じゃ、今度からは3人で洋人の応援しようよ」



雅子さんからの提案にあたしは目を輝かせた。



それってとても素敵な提案だ!



「ま、まぁ。あたしはそれでもかまわないわよ?」



美鈴さんは腕組みをして言う。



その様子にあたしは声をあげて笑ったのだった。

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