第27話
次の登校日の朝、あたしは割れた姿見の前で制服に着替えた。
シワシワになったブラウスも上着もスカートもちゃんとアイロンをかけて綺麗にした。
登校初日というわけでもないのにやけに緊張してしまって、何度も鏡の前で自分の姿を確認する。
髪の毛跳ねてないよね?
制服のシワもとってある。
後は、変なところはないよね?
そうしてグズグズしている間にあっという間に登校時間になっていた。
「よし。今日は学校に行くぞ!」
洋人君と約束したんだもん。
行かないなんて選択肢はない。
あたしは大きく息を吸い込んで、カバンを右手に持ち、部屋を出たのだった。
☆☆☆
外はとてもいい天気だった。
玄関から出た瞬間昨日の雨が嘘だったように晴れ渡っている。
森の小道を抜けて大通りへと歩いて出ると、朝の喧騒に包まれた。
行きかう車。
自転車に早足のサラリーマン。
その中をあたしは学校へ向けて歩く。
同じ制服とすれ違うたびにちょっと緊張して体を硬直させながら。
「よぉ、おはよ」
校門が見えてきたとき、そこに洋人君が立っているのが見えてあたしは足を止めた。
「洋人君、もしかして待っていてくれたの?」
「まぁ、一応な」
洋人君は照れ隠しに頭をかきながら言った。
「ありがとう」
お礼をいい、肩を並べて歩き出す。
こんな姿を見られたら余計に美鈴さんたちから反感を買うかもしれない。
だけど洋人君と一緒ならそれも怖くない。
2年A組の教室へ入るとみんなの視線が突き刺さる。
久しぶりの登校だからそこに好奇心が含まれていることが安易にわかった。
あたしは少し引きつった笑みを浮かべて、クラスメートたちへ向けて「おはよう」と、声をかける。
あたしの様子に安心したように、数人のクラスメートたちが挨拶を返してくれた。
よかった、大丈夫そうだ。
魔女の噂が広がっていて無視されるかもしれないという覚悟をしてきたのだ。
ひとまずそれはなかったようで、あたしは自分の席に座った。
「ちょっと千奈! 体調大丈夫?」
教室に入ってくるや否や元気に声をかけてきたのは、もちろん真夏だ。
一番手前の席に座っているあたしを見て、挨拶も忘れてしまっている。
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
真夏の後ろから綾が顔を見せて「大丈夫?」と聞いてくる。
こちらは体調のことを聞いているようじゃなさそうだ。
きっと、あの噂について傷ついていないかどうか、という質問だ。
それにもあたしはうなづいた。
「大丈夫だよ。綾にも心配かけちゃってごめんね」
2人は本当にあたしのことを気にして、あの屋敷にまで来てくれたのだ。
洋人君と同じくらいあたしのことを心配してくれている。
2人が話しかけてくれたおかげで、他の女子生徒たちも「もういいの?」「風邪だったんでしょう?」と、声をかけてくれはじめた。
みんな気にしてくれていたことがわかり、なんだかくすぐったさを感じる。
だけど、あたしが登校してくることを快く思っていない人も少なからずいる。
「あれぇ? 魔女が来てるじゃん」
そう言ったのは美鈴さんだった。
「本当だ! 魔女だってバレたから、学校にこれなくなったんだと思った」
雅子さんが言葉を続けて笑い始める。
「ちょっと2人とも、いい加減にしなよ!」
「真夏はどうしてそんなヤツをかばうの?」
美鈴さんが真夏を睨みつける。
真夏も負けじと美鈴さんを睨み返した。
嫌な空気が教室に流れ始めるのがわかった。
「やめて」
あたしは2人が言い合いになる前に、その間に割って入っていた。
そして美鈴さんへ視線を向ける。
「仮に魔女がいたとして、それが美鈴さんに関係があることなの?」
自分の声が教室の中に響いているように感じられて少し恥ずかしい。
だけどここで引き下がっちゃいけない。
学校へ来る。
思い出を作る。
そう決めたのなら、あたし自身が一番しっかりしなきゃいけなかった。
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