第23話

「俺、千奈のどんなことでも知りたいと思う」



「本当に?」



「あぁ」



洋人君の表情は真剣だった。



外の雨音は更に激しさを増していて少し気になったけれど、あたしは居住まいを正して洋人君を見つめた。



「昔、好きな人がいたの。その人にも理解してほしくて、この体質のことを説明した」



あたしはその時のことを思い出し、ゆっくりと説明をはじめた。



自分がこの体になって最初のころはいろんな人に相談した。



そのたびに気味悪がられて、みんなあたしの前からいなくなってしまった。



それからだんだん自分の体の相談を人にすることはなくなっていった。



みんなどんどん死んでいくのに自分だけ死なないなんて気持ちが悪い。



あたし自身も自分の体を嫌悪するようになっていた。



そうしてごまかしながら生きていたけれど、洋介君に会ってからあたしの気持ちが変化した。



この人には知っていてほしい。



この人なら理解してくれるかもしれない。



そんな期待をしてしまったのだ。



「でも、無理だった。つい、勢いで手首なんか切っちゃったから、その人もあたしから離れて言っちゃった」



言いながら声が震えてしまった。



あの時のことは何度思い出しても胸が痛む。



結局洋介君とはろくな別れも言えないまま、記憶を改ざんすることになってしまったから。



「そっか、そんなことがあったんだな」



あたしの話を全部聞いてくれた洋人君が大きく息を吐き出した。



「ごめんね。こんな話信じられないよね」



「そうだな……でも、それでも俺は千奈のことが好きだなって思ってる」



あたしは驚いて洋人君を見た。



今の言葉は本当だろうか?



あたしは耳が悪くなってしまったんだろうか。



あまりに見つめすぎてしまったからか、洋人君が慌てたように口を開く。



「ほら、今はいろいろな物語もあってさ、不老不死の作品だって沢山あるだろ。それに、現実世界でも区別するべきものとそうじゃないものが変化して行ってさ。だから、本当にそういう人がいても不思議じゃないのかなって、思ったりして」



洋人君は早口にそう言った。



「そう……だよね」



確かに、昔に比べれば随分と生きやすい世界になってきたという実感はあった。



だけどそれはあたしにとっての世界じゃない。



もっとごく普通の人たちにとっての世界だ。



「だからさ、俺もまずは受け入れることから初めてみようと思うんだけど、どうかな?」



「あたしのことを、受け入れてくれるの?」



「もちろん。不老不死だからって拒否する必要はないだろう?」



洋人君はそう言って笑う。



まだ戸惑っているような雰囲気はあるけれど、洋人君の優しさが嬉しかった。



その嬉しさが涙になって頬を流れていくまで、時間はかからなかった。



「こんなことになるなら、あたし中学生をするんじゃなかったかな」



学生としてでなく、街とかで洋人君と出会っていれば記憶を改ざんする必要だってなかったのに。



「なんでそんなこと言うんだよ。俺は千奈とクラスメートになれて嬉しいのに」



少し膨れっ面になっていう洋人君に、笑ってしまう。



「そうだね、あたしも嬉しい」



そう言ってから、また真剣な表情に戻った。



「でもね、あたしは永遠の13歳だから学年をあがることはできないの」



「え?」



「不老不死の魔女がみんなの記憶を改ざんできることは知っているよね?」



「あぁ。え、まさか……」



察して、洋人君が目を大きく見開いた。



その目にあたしの姿が映っているのがわかって、嬉しくなる。



キャンバスの中じゃなくて、本物の洋人君があたしを見てくれている。



「あれ、本当なんだよ」



あたしの言葉に洋人君は口をポカンとあけて硬直してしまった。



「あたしはみんなの記憶を改ざんして、今渡中学校に通っているの」



「嘘だろ。1年生の頃から千奈の名前くらいは聞いたことがあった」



あたしは左右に首をふる。



「それも、改ざんされた記憶。真夏や綾と親友だっていうのも、全部あたしが学生生活をスムーズに送るためのもの」

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