第18話

「うん」



「そんなわけないじゃん。魔女なんていないよ」



「それはわかってるけどさ、美鈴たちが洋館や魔女の話を始めてから、千奈の様子が変わったよね?」



「それはきっと、あたしたちに迷惑をかけたくないからだよ」



「そんな! 迷惑だなんて思ってないのに!」



「もちろんだよ。でも、千奈ってやけに大人びてるところがあるから、自分がひとりになることで、あたしたちを守ろうとしてるんだと思うよ」



水音が聞こえてくる中、2人はそんな会話を続ける。



本当に出るに出られなくなってしまった。



あたしは仕方なくトイレに座って待つことにした。



「それならさ、あたしたちが洋館に行って、魔女なんかいなかったって証明すればいいじゃん!」



真夏の提案に心臓がはねた。



「洋館へ行くつもり?」



「そうだよ。それで、中に入って写真撮って、美鈴と雅子に見せてやんの!」



「それいいね! あ、でも、お化け屋敷なんだよね?」



綾の声が尻すぼみになる。



そのまま諦めてくれるように祈るが、真夏はそう簡単にはいかない。



「幽霊も魔女もいないに決まってるでしょ?」



「そ、そうだよね?」



2人の会話にあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



まずい展開だ。



2人はあたしのために洋館へ行こうと考えている。



咄嗟に今からでも外へ出ようかと思ったが、2人はそのままトイレから出て行ってしまった。



個室から出たときにはすでに誰の姿もなくて、あたしはため息を吐き出したのだった。


☆☆☆


興味本位で家まで来られたら、本当に困ってしまうことになる。



どうにかしてあの2人に諦めてもらわないといけないが、自分から遠ざかっていたため話かけるチャンスが見つからない。



どうしてこうタイミングが悪いことばかり続くんだろう。



頭を抱えたくなったとき、ひとつの考えが浮かんだ。



困ったときでもどうにかする方法がひとつだけある。



それは1年を待たずにみんなの記憶を消すことだった。



今記憶を消してしまえば、すべてがなかったことにできる。



いざとなれば、それ以外に方法はなかった。



考えながらもあたしの視界の中には洋人君の姿があり、知らずに目を追いかけていたことに気がついた。



慌てて視線をそらして、強く左右に首をふる。



今はもう恋愛なんかにかまけている場合じゃない。



あたしの正体がバレてしまうかもしれない時なんだ。



今日、家に帰ったらみんなの記憶を消す。



それですべてはおしまいにできるんだから……。


☆☆☆


人の記憶を操作することはあたしにとって簡単なことだった。



ただ、強く願うのだ。



みんなの記憶の中から、あたしの存在を消してくださいと。



そうすれば明日にはあたしのことなんて覚えていないのだ。



「なんで、できないんだろう」



ベッドルームに篭り、何度も記憶の改ざんを試みているのだけれど、うまくいかない。



途中で洋人君の顔が浮かんできて、思考が途切れてしまうのだ。



あたしはベッドに寝転んで両手で顔を覆った。



こんな風になるのははじめてのことだった。



洋人君の中からあたしの存在を消したくないと、どうしても思ってしまって力を発揮できない。



「みんなの記憶を消さないと、真夏たちが家まで来ちゃうのに!」



自分にそう言い聞かせてみても、洋人君に握り締められた右手のぬくもりが消えない。

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