第12話

洋人君が鋭い視線を2人へ向ける。



2人がどうじにたじろぐのがわかった。



目を見交わせて、言い訳を考えるように互いに目配せを繰り返している。



「どうしてそんなことをするんだ?」



更に質問を重ねられて、2人は後ずさる。



「そ、それは……」



「それは、なんだよ?」



洋人君の言葉に美鈴さんは泣きそうになってしまった。



言えるわけがない。



洋人君のことが好きだから、あたしの存在が気になって尾行したなんてこと。



「もういいじゃん。2人とも、偶然あたしに似た人を見たんじゃないかな?」



見ていられなくて、あたしは口をはさんでいた。



真夏と綾が驚いた顔をこちらへ向ける。



「ちょっと千奈。どうしてかばうの?」



真夏に言われてあたしは苦笑をもらした。



「だって、2人とも悪気があったわけじゃないと思うし。ね?」



美鈴さんと雅子さんへ視線を向けると、2人は同時にうなづいた。



本当はあたしを陥れるためにやったんだとしても、それは見なかったことにする。



これ以降、何事もなく過ごすことができればあたしはそれで良かった。



「千奈がそういうなら、俺はいいけど」



洋人君は納得いかない様子だったけれど、しぶしぶうなづいてくれた。



真夏と綾もそれで一応は納得してくれたようで、ホッと胸をなでおろしたのだった。



「どうしてあの2人を許しちゃうの?」



給食が終わって思い思いの時間を過ごしていると、真夏がふくれっつらで聞いてきた。



あたしたち3人は今教室のベランダにいる。



「特に悪いことをしてるわけでもないしさ、そんなに怒ることないかなーって思って」



それに、後ろ姿をとられてしまったのはあたしの落ち度だ。



気をつけなきゃいけなかったのに、舞い上がってしまった。



「盗撮は十分に怒っていいことだと思うよ?」



綾が真剣な表情で言った。



「そうだね。でも、あれは本当にあたしの後姿じゃないからね?」



「それはわかってるけど……」



綾がうつむいたとき、「その話はもう終わったんだろ?」と、窓の向こうから洋人君が声をかけてきた。



「ひ、洋人君」



思わず声が裏返ってしまった。



急な出現は心臓に悪い。



洋人君が声をかけてきた途端、真夏の表情がニヤけるのがわかった。



「でもまぁ、なにかあったら言えよ? 俺にできることがあれば、なんでも手を貸すから」



「う、うん。ありがとう」



洋人君の言葉に、あぁ、やっぱりあたしはこの人のことが好きなんだなぁと、再確認するのだった。


☆☆☆


家に戻ってからのあたしはそのままベッドに横になった。



ゴロゴロと何度も寝返りを打って、浮かんでくる美鈴さんと雅子さんの顔を頭から追い出そうとする。



でも、なかなかうまくいかない。



あの2人は要注意だ。



それに、あたし自身も……。



あたしは自分の左手首へ視線を向けた。



そこには薄い線が一本横に引かれている。



それは消えてなくなりそうで、なかなか消えることのない線だった。



あたしはそっと線を指先でなぞり、そしてようやく目を閉じたのだった。



夢を見ていた。



あまり夢を見ることはなかったのだけれど、ここ最近はよく夢をみるようになった。



それは洋人君のことを意識しはじめた頃から頻繁に始まったことだった。



あたしは公園を歩いていた。



とても広い公園で、大きな石段がある。



あの河川敷にあったような石段だ。



あたしは誰かと手をつないで歩いている。



洋人君?



そう思って右側の人に視線を向けるが、逆光になっていて顔が見えない。



背格好も雰囲気も洋人君胃よく似ている。



次の瞬間あたしが口を開き、その人の名前を読んだ。



「洋介君」



その名前に、夢の中なのに心臓がドクンッとはねた。



手をつないでいる彼がこちらを向くのがわかった。



洋介君。



彼は洋人君ではないと理解するまで、少し時間がかかった。



2人で楽しそうに会話をしながら石段を下り始めた、そのときだった。

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