第11話

ため息混じりに最後の一口を食べ終わったときだった。



タイミングを見計らったように美鈴さんと雅子さんの2人がこちらへ近づいてきた。



真夏と綾があからさまに顔をしかめる。



あたしはそんなことできないから、眉を下げて2人を待つしかなかった。



ここで立ちあがって教室を出るようなことをすれば、余計に2人との関係は悪化しそうだし。



「話の続きなんだけど」



美鈴さんがあたしの前で腕組みをして言う。



あたしはゴクリと唾を飲み込み、引きつった笑みを浮かべた。



「な、なに?」



わざわざこの時間を選んで話かけたのは、休憩時間が長いからだろう。



あたしがちゃんと答えるまで開放してくれないかもしれない。



「浅海さんって、あの洋館に住んでるでしょう?」



雅子さんから不意に言われてあたしは反応ができなくて硬直してしまった。



真夏と綾の2人も瞬きをして雅子さんを見ている。



そして同時に噴出して笑い始めた。



「洋館って、あのお化け屋敷のこと?」



笑いながら真夏が聞くと、雅子さんと美鈴さんは真剣な表情でうなづいた。



「そんなわけないじゃん。あそこって誰も暮らしてないからお化け屋敷って呼ばれてるんだし」



「でも、昨日あの家に帰っていくのを見たんだから!」



美鈴さんが声を大きくして言い切った。



その目はあたしを睨んでいる。



「で、でも……」



どう返事をすれば2人は納得してくれるだろうか。



うかつなことは言えなくて言葉に困っていると、美鈴がんがスマホを取り出してあたしの机の上に置いた。



「なに?」



真夏と綾の2人が身を乗り出してスマホ画面を確認する。



そこに移っているのは1人の女の子の後ろ姿だった。



ジーンズにTシャツに、パーカー。



一見するとそれが誰なのかわからない。



しかし、それを見た瞬間体から血の気が引いていくのを感じた。



間違いなくこれはあたしの後ろ姿だった。



あたしの目の前には洋館へと続く細い道が伸びている。



この道の先へ進むと小さな森があり、その先に洋館はあるのだ。



それ以外にはなにもない場所だからこの道を歩く人もいない。



「誰これ?」



真夏が首をかしげている。



「浅海さんよ。昨日後をつけて写真を撮ったの」



雅子さんが自信満々に言う。



「そんなわけないじゃん。この奥の森に行ったってなにもないし、こんな写真じゃ千奈だってわかんないじゃん」



真夏の声がきつくなる。



綾もさっきから不満げに眉を寄せていた。



まずい、このままじゃあたしのせいで喧嘩になっちゃう。



早くなにか言わないと。



怪しまれず、それでいて角が立たないようななにかを……。



焦って余計に頭の中が真っ白になったとき、洋人君が近づいてきた。



「なにしてんの?」



いつもの調子で、なんでもないように話しかけてくる洋人君に美鈴さんと雅子さんの頬がピンク色に染まった。



それは恋をする女の子そのもので、少しだけ胸が痛んだ。



「ちょうど良かった。洋人君もこれを見てよ」



「あ、待って!」



慌ててとめようとしたけれど、遅かった。



美鈴さんはスマホを洋人君に見せてしまったのだ。



洋人君は昨日のあたしの服装を知っているから、あたしだとバレてしまう……!



「誰、これ?」



次の出てきた洋人君の言葉にあたしは「えっ」と目を見開いた。



洋人君は写真を見て首をかしげている。



「誰って、浅海さんだよ。洋人君、昨日浅海さんを見ているんだからわかるでしょう?」



美鈴さんが突っかかるように聞く。



「あぁ。確かに昨日は一緒にいたよ。俺が家までちゃんと送ったんだ」



洋人君は笑顔になってそう言った。



「その後もあたしたちは浅海さんの後をつけていたの! そうしたら、洋館に続く道に歩いていったのよ!」



雅子さんが畳み掛けるように言う。



もう、ダメだ。



そう思って下唇をかみ締めた。



だいたい、不老不死のあたしが家まで尾行されるなんて、気が緩んでいるとしか言いようがない。



いくら記憶を改ざんできると言っても、恋にかまけていたせいだとしか思えなかった。



「お前ら、千奈のことを尾行してたのか?」

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