第10話
☆☆☆
何事も中途半端にされてしまうと余計に気にかかる。
「今日はなんかボーッとしてないか?」
15分間という短い休憩時間、洋人君が心配して声をかけてきた。
「全然大丈夫だよ」
笑顔と共にそう答えるけれど、本当は美鈴さんと雅子さんのことが気になって仕方なかった。
あれから話かけてこないけれど、あたしに確認したいことってなんだったんだろう?
気になるけれど、こちらから話かけて空気が悪くなることは避けたかった。
話しかけるなら、学校が終わってからのほうがいい。
「千奈は今恋の病なんだよねぇ」
横からちょっかいを出してきたのは真夏だ。
その横には綾もいる。
「そ、そんなんじゃないし!」
慌てて否定するけれど、2人はあたしの話なんて聞いていない。
ニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべてあたしと洋人君を交互に見ている。
「え、まじ?」
なんて、洋人君まで真に受けるから余計に慌ててしまった。
「そんなんじゃないってば!」
慌てれば慌てるほどに怪しさ満開で、2人の思う壺にはまってしまう。
どうにか抜け出さなきゃと思って、思いっきり話題を変えた。
「それよりも、昨日のテレビおもしろかったよねぇ」
話題を変えすぎて3人が同時にキョトンとした表情になってしまった。
「おぉー見た見た。なんだっけあのテレビ」
「えーっとなんだっけねぇ?」
あたしと洋人君が同時に首をかしげたので、真夏と綾が同時に噴出した。
真夏なんておなかを抱えて笑っている。
「もう、2人とも本当にお似合いなんだから」
お似合い!?
その言葉にまた心臓がドクンッとはねる。
なんとかごまかそうとしたのに、これじゃ台無しだ。
またしどろもどろになってしまいそうになったとき、強い視線を感じて教室後方へ視線を向けた。
そこには美鈴さんと雅子さんが立っている。
こちらと、じとっとした、あの目で見つめてきているのだった。
☆☆☆
居心地の悪さを感じるまま昼休憩になっていた。
半ばホッとしながら真夏と綾の2人と一緒に給食を食べ始めた。
この学校は給食だけど、班に分かれて食べる必要がないのが好きだった。
「洋人って絶対に千奈のことが好きだよね」
スープを口に入れたところで真夏がそんなことを言うので思わず噴出してしまいそうになる。
慌てて飲み込んで、少しむせた。
涙目になって真夏を見ると真夏はニヤついた笑みをうかべてあたしを見ていた。
「なにを言い出すの?」
「だって、見るからにそうじゃん!」
真夏の隣で綾もうんうんとうなづいている。
綾の机の上には恋愛小説の文庫本が置かれていた。
いつもは自己啓発所を読んでいるのに、なんで今日に限って。
と、言うツッコミは入れないでおくことにする。
きっと更にからかわれることになるだろうから。
「そんなのわかんないでしょ」
この人生を楽しむと決めたものの、あたしも相手も13歳だ。
付き合うと言っても過度なことをは控えたいという気持ちも持っていた。
「千奈も洋人君のことが好きだから、両思いだね」
綾は静かな声で爆弾発言をする。
あたしはまたむせてしまいそうになり、焦って牛乳を飲んだ。
「2人ともやめてよ。あたしいつかご飯を喉に詰まらせて死んじゃうよ」
ごほごほと咳をして2人を睨む。
すると2人は同時に笑って、謝ってきた。
「ごめんごめん。でもさ、実際問題、ちょっと気にしてたほうがいいこともあるかもよ?」
そう言われて視線を移動させると、教室後方であたしを見ている4つの目に気がついた。
美鈴さんと雅子さんだ……。
どうりでさっきから居心地の悪さを感じると思っていたわけだ。
原因がわかって更に気分が重たくなる。
さっきまでおいしく感じていた給食が、今はただ喉を通り過ぎていくばかりだ。
「あの2人、洋人君狙いだったもんねぇ……」
綾がスラッと爆弾発言をする。
なんとなくわかっていたものの、やっぱりそうかという感じてため息が出た。
「いつから?」
聞くと、真夏が難しそうに眉を寄せて「1年生の頃からずっと」と、教えてくれた。
そんなに長いんだ。
1年生の頃の記憶はみんなに植え付けてあるけれど、それは偽者の記憶だ。
2人と洋人君との時間のほうが遥かに長い。
当たり前のことなのに、胸の奥がうずいた。
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