第26話 足1

「はぁ……はぁ……ふぅ…………チューって意外と疲れるんだね」


「だな」


 一心不乱に互いの唇を求め合った俺と千夏は力尽きるようにベッドに身を預ける。


「「……………………」」


 俺たちは横になって顔を見合わせず二人して天井を見つめている。隣から聞こえてくるのは少し乱れ気味な息遣い。


 暗くもなく、かと言って決して明るくもない哀愁あいしゅう漂う部屋で、男女が二人ベッドの上。


 朝の続きはもう終わったのかそれともまだ途中なのか、探り合いの時間。


 童貞の俺でもわかる……この雰囲気はキスだけじゃ終わらない。キッカケさえあればフィニッシュまでいってしまえる。


 だからこそもどかしい。このまま二人天井を見つめて牽制しあっていたらどこかでうやむやになって気まずく解散になるかもしれない。


 女子を気遣う優しい男子と言えば聞こえは良いが俺からしたらそんなのは意気地のないシャバ憎。大事な場面こそリードしてなんぼだと思っている。


 これでもし、千夏にその気がまったくなかったとしたら、その時は俺の独りよがりな判断だったと素直に認めよう。ビンタだろうがハイキックだろうが受けるつもりだ。


 そのリスクを負ってでも、男にはやらなきゃいけない時がある。


 覚悟を決めた男の行動はもう誰にも止められない。俺はおもむろに上体を起こした後、仰向けでいる千夏の上におおい被さった。スプリングのきしむ音が場を更に盛り上げた気がした。


「……………………」


 顔を横に逸らしながらも、千夏の視線はちゃんと俺を捉えている。


「…………兄ちゃん」


 千夏は自分の人差し指を口に加えながら甘くとろけるような声で俺を呼び――そして、


「…………いいよぉ」


 受け入れてくれた。


「まだなにも言ってないけど?」


「もぅ、意地悪しないで――んん」


 俺はむくれた顔をする千夏にキスをする。


「んちゅッ――――ぷわぁ」


 再び千夏を堪能し、ごちそうさまでしたと唇を離すと、まだまだ繋がっていたいとでも言うように唾液が悩ましく糸を引く。それを見た千夏は「エッチだね」と恥ずかしそうに呟いた。


「本当に……いいんだな?」


 つやめく瞳に俺を映す千夏は、こくっと小さく頷いた。


「それじゃあさ……」


「うん」


「〝足〟、舐めてもいい?」

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