第27話 足2
「――え、あ、足ッ⁉」
目をかっと開いて驚きをあらわにした千夏は、ブンブンと勢いよく首を横に振る。
「ムリムリッ! さすがにそれはムリだってばッ!」
「どうして?」
「ど、どうしてって、それは……恥ずかしいし……それに、ばっちぃと思われたくないから」
「そんなこと思わないから安心して?」
「えぇ…………や――やっぱダメッ!」
下へ下へ移動し太ももがちょうど真下に見えたタイミングで千夏はするりと一成包囲網を抜け出した。
四つん這いのまま取り残された俺は顔を上げて千夏を見やる。
「い、いくら兄ちゃんのお願いでもこればっかりはダメ! 恥ずかしすぎるからッ!」
ベッドの隅、壁に背を預け両足を守るように抱えて座る千夏が抵抗の姿勢を示した。
不思議だった。自分でもどうしてここまで千夏の足に
けど、千夏に足の指で頬をつつかれた瞬間、電流が走った気がしたんだ。以降今に至るまで、千夏の足が頭から離れてくれない。
使命感にも似た感情が、千夏の足を舐めまわせと俺を駆り立てる。
これはもう生死に関わる問題だ。今日、ここで千夏の足を舐めて生きながらえるか、それとも舐められずに朽ちるか……二つに一つ。
で、あるならば――生きたいと思うのが普通ではないか。
俺はベッドの上で正座しなおし、じっと千夏を見つめる。
「そんな真剣な表情されても、ムリなもはムリだからッ!」
「……足で俺の頭を撫でたり頬をグリグリしてきたのに舐められるのは恥ずかしいと?」
「それは……次元が違うというかなんというか」
「……大差、なくないか?」
「うぅ……」
反論が思い浮かばなかったのだろう、千夏は居心地悪そうに縮こまる。
「舐めさせてくれないのか?」
「…………恥ずかしんだもん」
「大丈夫。兄ちゃんのほっぺたに足を押しつけることができた千夏なら大丈夫だって」
「全然大丈夫じゃないってばッ! ……それに、あれは兄ちゃんへのお仕置きでやっただけで、好きでやったわけじゃないし」
千夏はつま先を指でいじりながらどこか不貞腐れたように言った。
「俺へのお仕置き?」
「そうだよ……初鹿野さんとかとイチャついてた罰」
「それについては誤解が解けたんじゃなかったのか?」
「ウチ、信じたとは一言も言ってないし」
口元を尖らせ、不満げな視線を向けてくる千夏。どうやら俺はまだ許されていないよう。
しかし困ったなぁ。このままだと千夏の足を舐められずに死んでしまう…………仕方ないか。
生か死か。俺が選び取ったのはもちろん生。
俺は膝立ちで千夏の傍に寄る。
「悪いな千夏――手荒な真似を許してくれ」
「え――」
そして足を守る千夏の手を力ずくでどかした。
「だ、ダメだよ兄ちゃん……ばっちぃから……恥ずかしから……やだぁ」
両手をがっちり掴まれている千夏はいやいやと首を横に振る。
がしかし本気で抵抗はしてこない。
千夏の両手の自由を奪うということは俺の両手の自由も失うということ。
つまり今の俺は無防備。千夏からすれば蹴りを食らわせて逃げ出すことも可能。
だというのに千夏はいやいやするだけでなにもしてこない。
ここで千夏に蹴られてたら素直に諦めてホームセンターで縄を買いに行ってた……けどそれをしてこないということはつまり――千夏も本心では舐められる望んでいるのでは? ……きっとそうだ。
俺はそう都合よく解釈し、千夏をベッドに押し倒す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます