第25話 西日差す自室にて

「顔を上げてくれ、千夏」


「……………………」


 俺が優しく声をかけるも千夏は反応を示さない。


 よっぽど嫌だったのだろう……ここは訂正しておかなくては。


「湿っていると言ったが、別に臭かったというわけじゃないからな? むしろ良い匂いがしたしそれに……なんというかその、悪くはなかったぞ?」


「……………………」


 ぽこん。千夏は無言のまま俺の腹を殴ってくるが、痛くはない。


「それと、不可抗力とは言えパンツを見てしまったことは謝っておく……ごめん。だがこれだけは言わせてくれ…………パンツ、可愛かったぞ」


「……………………もぅ」


 ぽかぽか殴ってきていた千夏はやがて俺のワイシャツを握り、今にも泣きだしそうな真っ赤な顔して見上げてきた。


「言わなくていいよぉ……そういうことはぁ……」


 コンロは更に火力を増し、消すのが不可能な領域にまで燃え上がる。これはもう……朝の続きをしなければダメだ。


「千夏。俺、もう我慢できない……朝の続き、していいか?」


 俺は千夏の顎に手を添え、瞳を真っ直ぐに見つめる。


 すると千夏は最初からこうなることが予見できていたように、すんなりとキス顔を俺にさらす。


 昨日の夜、今日の朝と、この尊いお顔を間近で拝見させてもらったが――夕方、西日差し込む自室でのキス顔は格別にエロかった。


 そもそも俺は抵抗する気がないが、仮にもしこの状況でキスをしないと抗ってみせてもその努力は残念ながら水泡に帰すだろう。


 最終的には千夏の唇に吸い込まれていく……今の俺がそうであるように。


「んッ――――」


 千夏に倣って俺も目を閉じた。


 キス自体の経験はあるがそれは幼かった頃の話で……多分千夏も俺と同じだろう。きゅっと結んだ唇を互いに押し当てるだけ。


 ぎこちなく、どこか遠慮が混じったキスを先に終わらせたのは千夏の方だった。


「……なんか、思ってたのと違う? かも」


 そう零した千夏の物足りなさそうな表情が俺を男にさせる。


「俺も同じこと思ってた」


「兄ちゃ――んッ」


 俺は千夏の頭に手を回して再びキスをする。


「――んあッ……兄ちゃ――あうッ」


 但し今度は押し当てるだけじゃなくモーションを加えている。千夏の上唇をむように、下唇を食むように。


 次第に千夏も口を広げて俺の唇を遠慮なく食みだしてきた。さっきまでとは打って比べて扇情せんじょう的な音が俺の部屋で静かに響く。


 ここまでくれば後は流れに身を任せるのみ。


「はぁ――んんうッ……ちゅぱッ……兄ちゃ――すきぃ」


 どちらからともなく舌を動かし、絡め合う。


 俺と千夏は夢中になって互いを求めあった。気が済むまで舌を入れたり入れさせたりして。


「……はぁ……はぁ……」


 それはもう、息が上がるまで。


「兄ちゃん…………もっとして」


「……ああ」


 椅子から立ち上がり、かかとを上げてキスをせがんできた千夏。


 その仕草を前にすると呼吸を整える時間すらも惜しく思えてしまう。


 俺は――千夏の要求に早急に応えた。

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