第22話 先輩舐めんな藤井さん3

「あわ……あわあわ……あわわわわ」


 片目を閉じてサムズアップする俺を見て藤井さんは口を震わせている。


 ……ひょっとして藤井さんも雪菜と一緒でしたいんじゃ――。


 そう思った刹那せつな、表情を一変させた藤井さんが拳を繰り出してきた。


「「――んなわけあるかあああああああああああああッ‼」」


「ぐふぉッ⁉」


 藤井さんの鉄拳が左頬を打つのと同時にもう一方から右の頬を捉えた拳が飛んできた。


 確認するまでもない……雪菜だ。


 藤井さんと雪菜の拳が俺の顔面をひょっとこにする。


「――なにを言うかと思えばお、おし、おしっ…………こって――――やっぱりッ! 今日の一成は絶対おかしいッ!」


「え、今日だけなんすか? ニブチンさんは下品が常じゃないんすか?」


「ううん、普段はこんなんじゃないよ。だからこそ、私は異変にすぐ気づけたんだけど、一成はなにも話してくれないし……それどころか認めてすらくれなくて」


「……はぁ。こんだけ女子を心配させて、ニブチンさんも罪な男っすね――って、なんすかそのふざけた顔。ひょっとして、もう一発欲しがってんすか?」


「ぢがああううぼんんはらでがああいざぞ!(違うそんなわけないだろ!)」


 絶賛ひょっとこ継続中のせいでまともに喋れず、そのことが余計に藤井さんの怒りを買てしまったらしく、拳がわなわなと震えている。


「ふぅん、へぇ~、そっすかぁ……初鹿野先輩も一緒にどうです? ニブチンさん、欲しがってるみたいですよ?」


「おじばっでだいおじばっでだい!(欲しがってない欲しがってない!)」


「ほんとだぁ~。欲張りだねぇ~一成は~」


「びどぼだだじびいべる?(人の話聞いてるッ?)」


「そんなに欲しいなら、お望み通りもう一撃お見舞いしてあげるね♡」


「お、それじゃあたしも!」


 藤井さんと雪菜はそれぞれ空いた手をブラブラさせたり「はぁ」と息を吐きかけたりしている。


 出した手を引っ込めてもう一度! だったならちゃんとした言葉を発せられる機会を得られたというのに……まさか二人ともダブルパンチでくるとは。


「うぶぶぶ(運がない)」


「「せ――っの!」」


 その時、織部一成の頭の中で喜怒哀楽きどあいらく問わず様々な思い出が、走馬灯のように駆け巡った――というフレーズが俺の脳裏をよぎる。


「「とりゃあああああああッ!」」


「ぶおあ(あ、ちょっと気持ち良いッ⁉)」


 二つの拳が俺の腹を打った。

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