第21話 先輩舐めんな藤井さん2

「な、なに的外れなこと言ってんだよ藤井さんとやら! 俺が雪菜の彼氏? んなのあるわけないだろッ!」


 というか、そういう話を冗談でも千夏の前でしないでくんない? 変に誤解されて嫌われちゃうとか小生、耐えられないから。ね? ヤンヤンつけ〇ーのトッピングのやつ全部使っていい権利をあげるからどうかお願い「そっすよね! あたしの目が腐ってたみたいっす!」って言ってぇ!


 俺は即座に否定し心で願った。


「…………ふふぅん?」


 がしかし、藤井さんとやらは俺の気持ちをまるで汲み取っていない笑みを浮かべながら探るように近づいてくる。


「なぁんか怪しっすねぇ~、彼氏さぁ~ん」


「彼氏じゃねっつってんだろッ! つか、根拠もなしに怪しまないでくんない?」

「いやいや、ちゃんと根拠はあるっすよ? ほら、彼氏さん早口で否定してたし……それに――」


 そこで言葉を区切った藤井さんは俺から雪菜へと視線を移す。


「初鹿野先輩の方はまんざらでもなさそっすけど?」


「んなわけねーだろ? ――なぁ? 雪菜」


「……………………」


 ほんのり頬を赤く染めている雪菜は前髪を指にクルクルと巻きつけていた。


「……ちょっと雪菜さん? さっきの聞いてました? ここで黙られちゃうと藤井さんとやらにますます疑いの目を向けられちゃうんですけど! お互いのためにも早く口をお開きになってくれませんかッ! マジでッ!」


「……え? あ、ごめん。ちょっと聞いてなかった……もう一回、いい?」


「いやだから! 藤井さんとやらに俺がお前の彼氏だと思われちゃってるから否定してくれって話! おーけー?」


「あ、うん。そ、だよ…………私と一成は別に、そんなんじゃない、から…………」


 そう消え入りそうな声で言った雪菜は、もろそうな笑顔を俺と藤井さんに拝ませた後、本日の展示は終了ですとでも言うように俯いてしまった。


 ………………………………。


「――な?」


「いやいやいやッ!「な?」じゃないっすよ「な?」じゃ! 今の初鹿野先輩の反応見てなにかこう――ギュギュギュッ! とかビリビリッ! ってきたもんなかったんすか? 彼氏さん」


「だから俺は彼氏じゃねんだって!」


「あーもうじゃあこの際〝ニブチン〟さんでいいすわ! ――ニブチンさんは! なんとも思わなかったんすか! 初鹿野先輩の反応を見て!」


「……ったく、なんだよニブチンさんて。後輩のくせに生意気だぞ?」


「はいはい、器の小ささをアピールしてないで早く言ってくださいニブチンさん」


 コイツ、後輩且つ今日が初めましてのくせして早速俺のことを舐め腐りやがってるな。


 腕を組み、足先をトントンと踏み鳴らし急かしてくる態度からは先輩への敬意といったものが一切伝わってこない。が、さっきみたく口うるさく言ったところで「ちっさ、おちょこの裏並みにちっさ」と煽られ流されるのがオチだろう。


 ……しゃくだがここは素直に従っておくか。


 そう判断した俺は情報を欲すべく、一度雪菜に目を向ける。


「――――ッ⁉」


 どうやら雪菜も俺のことを見ていたようでほんの一瞬視線が交わった。が、すぐにまた彼女は俯いてしまう。


 …………………………………………ふむ。


 俺は落ち着きなくモジモジしている雪菜から藤井さんに視線を戻して口を開く。


「おしっこが漏れちゃいそうなんだと……行かせてやろうぜ」

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