第17話 アンパンはこんなにも甘いのに、どこか失恋のような味がする(恋愛経験ゼロ)1
気付けば昼休みを迎えていた。
午前中の授業は脳死でただ黒板に羅列された文字や数字をノートに書き写すロボットと化していたが、昼休みの弛緩した空気のおかげもあって俺は心というものを少しだけ取り戻す。
「…………飯行こ」
普段は友達と学食で過ごすこの時間、今日はどうにも気が乗らないというか誰かと一緒にいるのが非常に
学食がダメとなると……購買しかねーか。
俺はよっこらしょと重い腰を上げ、足をすって歩く。
教室を後にする際に誰かからの視線を感じたような気がしたが、恐らく気のせいだろう。
***
たまには外で食いたいなってことで俺は中庭を昼食場所として選んだ。別の候補として屋上があったが、ギャルがたむろってたからやめた。
二人は余裕、詰めれば三人でも座れるだろうベンチに俺は一人腰かける。他に誰もいないからこそできる贅沢な使い方だ。
それなりに人がいるイメージだったけどなぁ…………あ、そっか。今日は月一の学食メニュー全品半額の日か。どうりで。
納得いく理由に辿り着いた俺はベンチの背もたれに肘をかけ、購買で買ったアンパンにかじりつく。
千夏のやつ、今頃なにしてんだろ。学食で友達とワイワイやってるのかな? それとも教室でワイワイやってるのかな? ……俺も一緒にワイワイしたい――というか千夏と二人だけでワイワイしたい! イチャイチャしたい! 今すぐに!
『ウチは気にしちゃうのッ! 兄ちゃんは大丈夫でもウチは気になっちゃうのッ! だから学校では話さないッ!』
「…………あ、そうだ、ダメなんだった」
朝、千夏に言われたことを思い出し、俺は天を仰ぐ。
「ダメ……なんだ」
そしてもう一度、青空に向かって呟いてから俺はそっと頭を抱え――、
千夏ああああああああああああああああああああああああああッ! 兄ちゃん寂しいいいいいいいいいよおおおおおおおおおおおおおおおおッ!
絶望する。
午前中はある意味で幸せだったのかもしれない。書き写しという名の作業に没頭していたおかげで思考を放棄できてたから。
失恋なるものを経験したことがないからハッキリとしたことは言えないが、今の俺の心理状態はそれに近いのかもしれない。少しでも考える時間ができるとすぐに特定の人を思い浮かべて気が
クソ、振られたわけじゃないのになにを悲観的になってるんだ俺はッ! あと三時間もすれば朝の続きができるんだぞ? 我慢するしかねーだろ――それしかねーだろッ!
「――頭を抱えて首を横に振りだしたかと思えば、今度は太ももをチンパンジーのように叩くって……ほんと、一人でなにやってんのさ、一成」
と、頭上から呆れたような声が降ってきた。
「……雪菜か」
ゆっくりと顔を上げ確認すると、軽蔑するような目で見下ろしてくる雪菜と視線が交わった。
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