第10話 慣れた道を、珍しい組み合わせで1

 俺が真ん中、両サイドにそれぞれ千夏と雪菜、両手に花とも呼べる状況で俺達は慣れた登校路を歩く。


 ……この三人で一緒に行動するのはいつぶりだろう。俺が中学に上がってからは一度もなかったはずだから、少なくとも四年振り? になるのか。


 そんだけ月日が経ってるなら、このなんとも言えない気まずさも頷ける。ましてや多感な時期の高校生だ、ちょっとしたキッカケで仲良くなったり仲直りしたりできる純粋さはとうに薄れている。


 高い所にある物に手が届くようになったし、バイトしてお金を得ることもできるようになった。なんなら自動二輪の免許だって取れてしまう。


 子供の頃にできなかったほとんどができるようになった。同時に子供の頃にできていたことが簡単にできなくなった。


 現状の沈黙がまさにそれだ。昔は仲が良かったが必ずしも今に通用するわけじゃない。むしろ妙に気恥ずかしくて互いが互いを遠慮するケースが多いんじゃなかろうか。


 ……あぁダメだ、こうも気まずい時間が続くと余計なことばっか考えてしまう。三十秒――体感的に三十秒経ったら話を振ろう、そうしよう。


「千夏ちゃんはもう学校に慣れた?」


 そう決めた矢先、右隣を歩く雪菜が千夏に話を振った。


「はい、慣れました。それがなにか?」


「あ、えっと、それなら良かったよ、うん」


「……………………」


 会話終了。


 ちょ、逆に空気悪化してない? さっきよりも息しづらいんだけど……やはりここは俺が――。


「あの、話めちゃくちゃ変わりますけど、初鹿野さんって好きな人とかいるんですか?」


「……え?」


 今度こそと思ったがその決意はまたしても必要なくなった。さっきの当たり障りのない内容に比べ、千夏が言い放ったのは中々にぶっ飛んでいた。開いた口が塞がらずにいる雪菜の表情がまさにそれを表している。


「だから、好きな人いるんですかって訊いたんですが?」


「あ、うん。ちゃんと聞き取れてたけど、いきなりすぎてちょっとビックリしちゃって」


「そうですか。で、どうなんです?」


 淡々とした口調で訊ねてくる千夏に対し、「うーん……その……」と明らかに困っている様子の雪菜。


 俺に助けを求めているのか、ちょくちょく雪菜から視線が送られてくる。


 仕方ない、ここは冗談の一つでも言って和ますとしますか。


「なんだよ雪菜、さっきから俺のことをチラチラ見てきて。言いたいことがあるなら言えよ」


「は、はぁ? 別に見てないんですけど?」


「いや絶対見てたって。あ、なに? もしかしなくても雪菜の好きな人って――」


 俺は小馬鹿にするような笑みを浮かべながら自分を指差した。


 その行為が彼女の逆鱗に触れてしまったのか、名前のクールさからは想像もつかないほど顔を紅潮こうちょうさせる雪菜。


「――んなわけあるかあああああああッ!」


「ぐはッ⁉」


 雪菜は手に持った鞄を俺の腹めがけてフルスイングしてきた。

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