第8話 雰囲気は大事

 昨日の続き、それは言うまでもなくキスのことである。


 眼前には俺からの口づけを目を閉じて待っている千夏のお顔が。緊張で口を若干すぼめ気味なのがまた可愛らしい。


 昨日と違う部分といえば時間帯と状況とそれから彼女の服装だ。学校がある日の朝ということで千夏は学生服を身にまとっている。


 パジャマ姿と同じく見慣れた姿……いや見慣れた姿だからこそ、普段絶対に見せない態度に興奮してしまうというもの。


「…………は、はやくぅ」


 おっといけないいけない――お姫様が目覚めのキスをお待ちだ。


 左目をうっすら開けて急かしてきた千夏に俺はウインクで返し、彼女の両肩を掴んだ。


 では、頂くとしようか。


 ――ピンポーン!


「「……………………」」


 誰かの訪れを知らせる機械音が俺の動きを止める。


 またしても邪魔が入ったか。いやでも千夏はキス顔を維持したままだぞ? …………はは~ん、さては居留守をつか――。


 ――ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。


 一体どんな教育を受けてきたのやら。頭のおかしい訪問者のチャイム連打が、俺と千夏の間に生まれていた良い雰囲気を遠慮なくぶち壊す。これじゃ居留守の意味もなくなってしまう。


「ちょっと見てくる」


 千夏にそれだけ伝え、俺は外の様子を確認しに向かう。


「…………雪菜ゆきな


 インターホンのディスプレイに見慣れた顔が映っている。


 初鹿野はじかの雪菜ゆきな、それが彼女の名だ。俺との関係は…………まぁいわゆる幼馴染ってやつだ。


 カメラ越しに映っている雪菜は、時折ときおり首をかしげてはインターホンのレンズを覗き込んだりしている。家の中が無人じゃないのを確信しているような素振りだ。


 さすがにこのまま無視は決め込めないなと、俺は通話ボタンを押して雪菜に声をかける。


「おい、不審者にしか見えないぞ」


『あ、やっとでたなぁ? もう、どうして無視すんのさ』


 俺の声を聞くなり雪菜は早速不満をあらわにした。


「いや、無視してたわけじゃないから…………てか、なんで雪菜がここに?」


『ふぅん……一成かずなりはこのままインターホン越しで会話進める気なんだぁ……へぇ……』


「……ちょい待ってろ」


 そう言って俺は一方的に通話を切った。


――――――――――――


どうも、深谷花です。

ここまで拝読くださりありがとうございます。皆さんの反応がモチベに繋がってます。

えーですがこの回でストックをすべて放出してしまったので、以降からは投稿頻度が遅くなってしまうかもしれません。できるだけ毎日投稿できるよう頑張っていきますが、どうか何卒。

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