19


 スマホの時計が7分後に16時になるところで、集中力は完全に切れた。

 もう少し読み進めたかったが、こればかりは仕方がない。まだ少しだけ残っているカフェラテに口をつけてひと息ついた。


 彼女はまだ来ていないようだった。

 今日はもう来ないのかもしれないな。

 そう思うことにした。

 鞄の中の「約束」は所詮、最初から私が勝手に作り上げた「約束」であって、彼女とのものでは無かったのだから、当然のことだ。

 鞄の中から少し顔を覗かせている「約束」だったものに視線を送ると、チクリとした胸の違和感に苦笑いで返事をした。



 夕方から雨が降る予報は分かっていたので、集中して少しばかり疲労した体を休めてから帰ることにた。

 瞳に癒しを求めて窓ガラスの外に目線を送ると、反射して映った自分の顔と目が合った。



 「なんて顔してんだよ。」



 私は思わず自分に突っ込みを入れずにはいられなかった。

 残りのカフェラテにもう一度口をつけて、反射した自分の顔と目を合わせないように、外の景色を眺めた。

 空は晴れ間が広がっていた。







 ガチャッ。


 「ただいまー…。」

 誰もいない部屋に帰宅の挨拶をして、1番にベランダへ向かった。

 洗濯物を仁王立ちでひとしきり見渡し、洗濯物をさっさと取り込んだ。


 「何やってんだろうなあー、ほんと。」


 深く溜め息をついて独り言をまたこぼした。


 少し濡れてしまった洗濯物たちをいそいそと部屋干しにする。

 ベランダの端っこに干していたバスタオルはびしょ濡れになっていて、思わずもうひと溜息。

 気づいた時には、びしょ濡れのバスタオルを思わず壁に投げつけていた。


 「っッ!女子かっ!女子なのかオレはッ!!?」


 



 大きな独り言に、初めて私の感情が上乗せされた瞬間だった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る